アンラーニングとは?必要とされる人材を育成するための方法論
Chat GPTに代表される生成AIの浸透など、環境の変化が激しい昨今では、ビジネスに必要な価値観やスキルは常に新しくなっています。その一方で、時代にあった新しいスキルをもつ人材が慢性的に不足しているのは否めません。企業は既存従業員の価値観・スキルを更新し、時代にあった戦力に引き上げることが求められています。
そうしたなかで注目されているのが、「アンラーニング(unlearning)」と呼ばれる方法論です。アンラーニングを適切に行うことで、ベテランをはじめ自社従業員が新しい価値観・スキルを取得しやすくなります。従業員が新しいスキルを獲得するためにも、アンラーニングの手順が有効なのです。
この記事ではアンラーニングとは何かといった概要からメリット、注意点、実践の手順まで解説しています。DX推進に必要なデジタル技術など、自社従業員に新しいスキルを身に着けてもらいたい場合は、この記事を参考にして下さい。
アンラーニングとは既存のスキルや価値観を見直し、有効でなくなったものを手放して新しいスキル・価値観を習得しやすくすることです。アンラーニングは、日本語で「学習棄却」や「学びほぐし」とも訳されます。
たとえば古いスキル・価値観をもつベテラン社員に、配置転換で突然新しいスキル・価値観を身に着けさせるのは簡単ではありません。それらを受け入れる態勢が整っていないと、新しいものを習得することはできないからです。
古いスキル・価値観を棄却するためには、それらを疑い客観的に見つめ直す必要があります。そこで「何をどう改善すべきか」が把握できれば、新しくどんな価値観・スキルを学ぶべきかを明確に理解できるのです。
リスキリング・リカレントとの違い
アンラーニングとよく混同される似た言葉としてリスキリングやリカレントがあげられます。ただしリスキリング・リカレントは、アンラーニングとは全く異なる概念です。
リスキリングとは、ビジネス環境の変化に対応するため従業員を再教育することを指します。一方リカレントとは、学校教育後も自分で学びたいと思うことを学び続けることです。
アンラーニングでは既存の価値観・スキルを「棄却する」のに対し、リスキリング・リカレントは新たに学習することを目的としています。アンラーニングと、リスキリング・リカレント教育は、このように方向性が全く異なるわけです。リスキリングなどで新しい価値観・スキルを学ぶためにも、その下地作りとしてアンラーニングが必要になるとも言えます。
アンラーニングが必要とされる理由
DX推進を目的とした新しいデジタル技術の導入など、企業を取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。DX化に伴って、社内のレガシーシステムを整理することも必要です。AI・IoT・ビッグデータなど、DX推進に必要な価値観・スキルは少なくありません。
その一方で、DX推進に必要なこれらデジタル技術を使いこなせる人材は不足しています。デジタル技術に関して、高いスキルをもつ人材を新たに雇用するのも簡単ではありません。
そこで必要となるのは、既存の自社従業員に新しいスキルを学んでもらうことです。保有するスキルが古くなったベテラン社員の価値観を刷新し、新しいスキルを習得してもらうのにアンラーニングが役立ちます。
アンラーニングの実践は、企業にとっても様々なメリットがあります。以下、実際にどのようなメリットがあるかみていきましょう。
従業員の成長を促せる
ビジネス環境を取り巻く環境の変化が激しい昨今では、せっかく取得したスキルが陳腐化するのも早くなっているのは否めません。アンラーニングを適切に行えば、従業員がこの点に気付き新しい価値観・スキルを習得しやすくなります。アンラーニングによって、従業員の成長を促せるわけです。
ベテラン社員の意識改革につながる
多くの経験とスキル、実績を誇るベテラン社員ほど変化を嫌うものです。経験やスキルが豊富なことは素晴らしいですが、既存の経験・スキルに固執すると、新しい価値観・スキルを習得する障壁になるのは否めません。
アンラーニングはそういった障壁を除去し、ベテラン社員が新しいスキルを習得するきっかけになります。ベテラン社員の意識改革を促し、デジタル技術の必要性や価値観を理解してもらえるわけです。
組織の業務効率が向上する
アンラーニングは、従業員が従来までの仕事のやり方やルールを客観的に見直すきっかけにもなります。その結果、従業員が改善すべき点に気付き、業務フローの見直しや再構築にもつながるのです。これにより、組織の業務効率も向上します。
新しい技術や価値観を受け入れやすい組織になる
組織全体でアンラーニングを継続することにより、従業員が環境変化に応じた価値観やスキルを柔軟に習得できるようになります。その結果、組織としても、新しい技術・価値観を受け入れやすくなるのです。
自分の価値観・スキルを見直し、時にはそれらを棄却する必要があるアンラーニングは、従業員にとっては大きな負担にもなります。実践する上での注意点を理解しておかないと、期待していた成果をあげるのは困難です。以下、実際にどんな点に気を付けるべきか見ていきましょう。
従業員のモチベーション低下に気を付ける
アンラーニングの進め方が適切でないと、従業員はこれまで学んだ価値観やスキルが「無駄だった」と感じてしまう可能性があります。自分が否定されたと考え、従業員のモチベーションが低下してしまうわけです。
従業員のモチベーションが下がった場合、元に戻すのは簡単ではありません。アンラーニングは従業員の存在を否定するものでなく、成長し長く活躍し続けてもらうための試みであることを丁寧に説明する必要があります。
個人単位でなくチームで行うようにする
アンラーニングは従業員個人単位でなく、チームで行うようにします。従業員1人だけが価値観や仕事のやり方を変えてしまうと、チームとしての足並みがそろわなくなってしまうからです。
またアンラーニングは、自分の弱さと向き合う必要があることから、従業員にとって辛い面もあるのは否めません。ただ個人単位でなくチームで行えば、その辛さをチームで共有できるので、個人単位で行うよりストレスは少なくてすむのです。
棄却すべき知識・価値観を正しく取捨選択する
アンラーニングは、これまでの知識・経験を全て否定する作業でないことも把握しておくべきです。現時点で有用な知識・価値観をきちんと取捨選択すれば、残ったものはこれからも仕事に役立てることができます。
知識や技術だけが対象でないことを理解する
アンラーニングは、これまで培った知識や技術といったスキルだけが対象でないことも理解しておく必要があります。従来の価値観を棄却することも、アンラーニングの目的です。古い価値観にとらわれ新しい価値観を認められないと、アンラーニングの目的は果たせません。
ラーニングの否定につながらないようにする
アンラーニングは、新しい価値観・スキルを習得すること(ラーニング)が最終的な目的です。けれどアンラーニングそのものを目的としてしまうと、従業員がラーニング自体に疑念を抱いてしまうことになります。自分が成長し組織に貢献するためにも、新しい価値観・スキルのラーニングが重要であることは従業員にきちんと説明しましょう。
アンラーニングのやり方・手順
アンラーニングは、やり方を間違えれば従業員のモチベーションを下げてしまうだけで成果をあげることはできません。ここでは、アンラーニングを適切に実践するのに必要な手順について解説します。
1.目的や方法を共有する
組織としてアンラーニングを行うためには、目的や方法の共有が必要です。アンラーニングの目的が共有されないと、従業員は「自分が否定された」と感じたり、ラーニング自体の否定に陥ったりする可能性があります。たとえば説明会を開いたり社内SNSで通知したりなどして、しっかり目的や方法を共有するようにしましょう。
2.個人単位での内省を促す
まずは個人単位で自分の価値観・スキルについて整理し、古いものまだ使えるものを取捨選択します。
この手順により、自分が固執していた棄却すべき思い込みや価値観に気付くこともできるでしょう。自分自身を客観的に見つめ直すことで、「そう聞いていた」とか「なんとなくそう思っていた」といった曖昧な事柄も明確にできるからです。
具体的には業務時間内に振り返りの時間を作ったり、日報などで振り返りの項を用意したりといった方法があります。
3.新しいスキルや価値観に気付ける機会を設ける
外部機関を活用したり研修を用意したりして、新しいスキル・価値観に気付ける機会を設けます。自分だけでアンラーニングを進めても、その効果には限界があるものです。
第三者を交えた機会の方が、刺激にもなり効果も高いでしょう。また従業員同士で意見交換をすることによって、互いの気づきを共有したりアイデアを具体化したりすることもできます。
4.効果測定を行う
1度限りのアンラーニングでは、期待した成果をあげるのは困難です。繰り返しアンラーニングを実践し、その都度効果測定を行うことで適切に軌道修正しながら高い成果をあげられるようになるでしょう。
環境変化が激しい昨今では、常にスキルや価値観は更新されていきます。そのためアンラーニングによって、継続的に自分を見つめ直すことも必要なのです。
5.アンラーニングの効果を人事評価に反映させる
せっかくアンラーニングを行っても、実務で活かせなければ意味がありません。アンラーニングの成果を人事評価に反映させることで、従業員に実践への活用を意識づけることができます。
まとめ
アンラーニングとは自分の価値観・スキルを見直し、古くなったものを棄却することで新しい価値観・スキルを習得しやすくする方法論です。
価値観・スキルを蓄積してきたベテラン従業員が、DX推進などに必要な新しいスキルを習得するのは簡単ではありません。そのためには、一度自らの価値観・スキルを棚卸しして、古く有用でなくなったものを棄却する必要があるためです。
アンラーニングを適切に実践することで、ベテランをはじめ既存の従業員が自らの価値観・スキルを見直し成長するきっかけを作ることができます。
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※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。