デジタルマーケティングファネルはオムニチャネルに向かわなければならない
マーケティングにおいては、AIDMAやAISASに代表されるような消費者行動モデルやマーケティングファネルが長い間用いられてきました。Hyper Island創立者のジョナサン氏は、消費者はこのようなモデルに従って行動することは稀であり、一見すると不規則にファネルの中を行き来する可能性が高いと指摘しています。消費者は明確なニーズを持っている場合もあれば、消費者自身が自分でもはっきりしないような漠然とした感情的・社会的ニーズを持っている場合もあります。そこでジョナサン氏は、現代のファネルレスマーケティングとは、消費者がニーズを探るときに、自社ブランドができる限り多くの場所に存在することだと主張しています。「DIGITAL JOBS TO BE DONE」に掲載された、ジョナサン氏の記事をお読みください。
1996年、組織をデジタルかつグローバルに改革したいと考える個人や企業のために、Hyper Islandを創立。革新的な学びの創造者であり、IKEAやMoët Hennessy、Paul Smith、Unileverなどグローバルクライアントの戦略パートナーを務めている。OTHER media、Crimson Sunbird など自ら事業を立ち上げ、技術、アジリティ、データ、IoTや 興味深いソフトウェアのイノベーションを探求している。また、Unileverのデジタル諮問委員会に在籍し、NTUシンガポールのアジアコンシューマー・インサイト研究所の アソシエート・フェローとして勤務。過去には、ロンドンのキングストン大学でも教鞭を執っていた。
デジタルマーケティングファネルはオムニチャネルに向かわなければならない
私たちはインターネット上の消費者について多くのことが分かり、データを通じて消費者の行動を観察することができます。その際に見えてくるものは非常に多岐にわたっています。消費者はただ単に識別できるパターンに従って行動するわけではありません。特に、有名なマーケティングファネルが示すような行動はしていないのです。
マーケティングファネルは何年にもわたって存在し、関心と欲求を通じた(ブランドの)認知から(購買という)行動に向けて顧客を促すようマーケターに働き掛けています。代理店や広告主は、ファネルがブランドや事業を構築するための有用なモデルであると仮定し、その各段階における戦略を設計してきました。テレビや紙媒体、そして屋外広告がファネルの一番上の理想的な認知ツールであると見なされる一方で、検索連動型広告やターゲットを絞ったオファーがファネルの一番下における行動戦略であると見なされています。
しかし実際に、消費者を観察し、データを活用してその行動を真に理解すると、消費者がこのような巧妙なモデルに従って行動することは稀であり、一見すると不規則にファネルの中を行き来する可能性が高いということがわかります。
何が起こっているのかを理解するためには、何が人々を商品/ブランド/ソリューションを求める課題解決者にするのかを探る必要があります。つまり、生活の中で欠けているもの、解決しづらいこと、自分たちの周囲を改善する機会といったものを特定するのです。クレイトン・クリステンセンは、これらのニーズを「ジョブ理論」と呼びました。ジョブというのは、カーペットのワインの染み抜きのようにとてもシンプルでいて、新しい車を買ったりスポーツクラブの会員になったりして、時間の経過を抑える方法を決めるように複雑でもあるのです。クリステンセンは、私たちが皆、実用的機能である「ジョブ」(染み抜き)、感情的ニーズ(気分の向上)、そして社会的モチベーション(周囲への誇示)が相まっているものを持っていると明らかにしました。彼は、イノベーターにはこれらのジョブに対応する商品やサービスを設計するよう、そしてマーケターには自社のソリューションがいかにこうしたジョブをうまく解決したかを示すよう促しました。
ファネルを用いてジョブ理論を考えるとき、消費者は自分たちが解決しようとしているさまざまなジョブを完全には自覚していないことがあるということを理解しなければなりません。
時に、ジョブは機能的で明確であり、消費者はGoogleに「急いでカーペットの染みを抜く」と入力して解決策を見つけ、身の回りにある既存の商品を利用するか(というのも、Googleはそういった商品が活用できるとしているので)、もしくは新たな超特急の都市配送サービスを利用した商品を注文するでしょう。これでジョブは解決です。
しかし、消費者が自分自身でさえもはっきりしないような、しつこい感情的・社会的ニーズを満たすために、さらなるオプションを探り始めるということが頻繁に起こります。一般的な問いを検索し、お気に入りのオンラインストアでウィンドーショッピングをし、友人に会い、PinterestやInstagramをスクロールしてインスピレーションを得て、テレビに出ている自分たちのような人に目がいくようになり、雑誌を読んだり新たな趣味を始めたりするのです。これをファネルの認知段階にあると言う人もいるかもしれませんが、実際には分かりません。すぐに何かを見つけてそれを買う(認知から購入まで3クリック)かもしれないし、または何週間、あるいは何カ月もかけて、まだ漠然としたニーズを探るかもしれません。
現代のファネルレスマーケティングとは、消費者がニーズを探るときに、自社ブランドができる限り多くの場所に存在するということです。満たされないニーズを探っていることを認識しても、すぐには購入を強要しないことです。そして、(隠喩的にも物質的にも)トライアルを可能にして、いかに自社ブランドが誰かの役に立っているかを示すことなのです。
ジョブの中にも、(今、自分のご褒美にバブルティーを買うといった)すぐに解決するものもあれば、(マンネリから抜け出すといったような)解決のために顧客がいろいろなソリューションを試すようなものもあるかもしれません。そして、ジョブの中には繰り返すようなものや、完全には解決しないものがあるからこそ、ブランドは購入後も引き続き顧客とソリューションを結び付けておかなければならないのです。これが、継続的なメンバーシップ型ブランド(健康、ファッション、金融サービス、エンターテイメントやテクノロジーなど)にとって、購入後も顧客にマーケティングを続けていかなければならない理由です。
サンドラ・ヴァンダーメルウェは、消費者行動のモデルとしてファネルを用いるべきではないとし、その代わりに顧客行動サイクルを提示しています。彼女は、ブランドは顧客の人生のかなり早い段階で入り込み、できるだけ長期にわたって関わる必要があると指摘しています。これは、ジョブ理論とも合致するものです。私は今後のマーケティングをデザインする際に、消費者行動とオムニチャネル界の双方の複雑さを考慮すべきであるということを付け加えたいのです。
ここで、ファネルレスの世界でどのようにマーケティングをデザインするかについて、いくつか提案したいと思います。
顧客にとって解決すべき課題を全て検討する。購入を強要しない(しかし購買につなげる)形で、こうした課題の解決を示すコンテンツをデザインする。
非顧客への支援や情報、アドバイスを提供してオファーを広げる。
ソーシャルメディアですでに支持している人を見つけ、自社ブランドについて語り続けるようにツールやサポートを提供する。
ショート動画を作って感情的ジョブの解決方法を示し、これを広く共有する。こうした動画においてもセールスのメッセージを強く打ち出し過ぎないように注意すること。
自社ブランドが存在することを思い出させるだけの力を認識する。スクロールして通り過ぎてしまったときでさえ自社のブランドが認識されるよう、必ず継続的に同一のブランドアセットやメッセージを用いるようにする。
消費者の中には時間をかけて自分自身のニーズを解決する人もいる。このような消費者にはソリューションを試しやすくしたり、またはサービスの「フリーミアム」版(基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組みのビジネスモデル)を提供したりする。
自社の商品がステータスや成功を誇示するのに役立つなら、パッケージや販売後のストーリーテリング、あるいは、「メンバーシップ」を活用して自社の商品を際立たせるようにする。
第三者やマーケットプレイス、eコマース店舗を通じて販売する際、必ず完全なブランドストーリーを伝える方法を依頼する。
消費者が探っているジョブを突き止めるために対話をしにいく。時間をかけて、一対一で(フォーカスグループを避けて)消費者の声を聴く。
分析を用いて、消費者が顧客になる複雑な道筋を追求する。
この記事は、「DIGITAL JOBS TO BE DONE」に掲載された原文「Digital marketing funnels need to go in an omnichannel world」を、許可を得て翻訳、編集したものです。
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。