ハイパーアイランドのAI&ビジネス関連プログラムの開発で学んだこと【パート2/3】
AIは今や、私たちの生活にとって欠かせない存在です。ですが、そもそもAIとは何か、何ができて何ができないのか、どのように協働していけばいいのか。考えたり理解している人はそれほど多くはないかもしれません。今回は、Hyper Island(ハイパーアイランド)のAIビジネスコンサルタントプログラムのマネージャー、Dano Marrによる3部構成の記事をお届けします。画家である彼がAIビジネスのプログラムを開発する上で何を学んだのか。パート2の本記事では、AIの課題、プロセス、そして人間に焦点を当てていきます。
この長編記事は3部構成となります。
AIとは何か?
このパートはAIの課題についてです。
AI(人工知能)とは、簡単に言うと数多あるコンピュータープログラムに対する総称で、人間のレベルかそれ以上で作業をこなすことに長けているものです。私たちは1950年代以降、AIとともに活動してきましたが、これらのコンピュータープログラムを少しずつ理解するたびに恐れる理由がなくなっていき、その畏怖もなくなっていきました。そして、より現実的なもの、つまり「ツール」になりました。私たちはAIと呼ぶのをやめ、ソフトウエアと呼ぶようになりました。これがAIの興味深い点なのです。これは将来にも起こりうることですが、AIに出合って理解し始めると、AIをツールと呼ぶようになります。AIは単なるツールになったのです。そして、ツールの目的は私たちの問題解決を手助けすることなのです。
では、何が問題か?
それこそが企業が問うている問題です。そして、それを解明することが極めて重要なことの1つなのです。「問題は何か?」これを定義できるでしょうか? そして、その問題の周辺に境界線を引くことはできるでしょうか? なぜなら、何をしなければならないのかという文脈を理解することが、問題に骨格を与えることになるからです。文脈と問題を理解して初めて、問題に対する可能な解決策について考え始めることができるのです。よくあるのがエネルギーの浪費や時間、リソースの無駄などの問題ですが、これらは最適化できる可能性があります。それがAIの期待されるところなのです。つまり、これらを最適化できる可能性があるということです。
時間の価値とは何でしょうか? とりわけ人の時間の価値とは何でしょうか? ある病院の医師が書類の記入に時間の半分を費やしているとしたら、その時間を使ってより多くの患者を診察したり、他の病院のスタッフと関わったり、少しだけでも休憩したほうが良いのではないでしょうか? そうすれば、その医師は仕事により多くのエネルギーを傾けることができるのです。これは病院でAIを活用して大量の書類記入作業を自動化している事例です。しかし、人間のレベルだけではないかもしれません。例えばAmazonはロボットフリートや、自動的にAからBにたどり着く最適な方法を見つけ出す大量のアルゴリズムを使って、フルフィルメントセンターを完全に自動化しました。そのようにして、配達は翌週ではなく、当日に行われています。課題は、賢いはずの私たち人間が、ベストなルートを見つけるよう最適化されたコンピューターに比べて、結論に至るまでにより多くの時間が掛かってしまうことです。
では、私たち人間は何をすることになるのでしょうか? 私たちにとって重要なことは何でしょうか? 実はAIを理解している人と理解していない人の間には大きなギャップがあります。そして、これは非常に本質的であり、意味のある問題なのです。非常に速いスピードで行われる物事に直面するとき(そして、何が起こっているのか理解できない人や、どう関わったらよいか、この変化にどう加わったらよいのかが理解できていない人がいるとき)、これが非常に大事なことなのです。どんな分野にも言語が存在します。どの領域、部門、分野においても、専門の言語があり、AIの言語もあるのです。
AIの言語
AI ビジネスコンサルタントプログラムでの私たちの役割は、AIの言語を別の言語に翻訳できる人になることです。製造会社、もしくは不動産会社での役員に対してかもしれません。もしくは銀行で働いている人のためかもしれません。経営陣の誰もが、AIとは何か、どのように言語を話すのかを理解しているとは限りません。AIを使って何ができて何ができないのか? 私たちには架け橋となるような人が必要なのです。つまり、ある分野での専門性を持ち合わせており、人工知能がビジネスのために何ができるのかということについても少々理解している人たちです。
この、架け橋となる人材は不可欠です。経営陣の誰かがデータサイエンティストと話ができ、エンジニアとコミュニケーションを取ることができ、プロジェクトマネジャーと会話することができ、営業担当者やカスタマーサクセス担当者、マーケティング担当者と話ができ、そして、開発者とも話ができるように支援する人なのです。これらの分野は全て関連しており、それぞれ独自のショートカット(内輪で通じる)言語をつくり出し、各領域において専門家レベルでコミュニケーションを取る能力を開発してきました。そのため、お互いに理解することが難しくなってしまいました。そこでAIビジネスコンサルタントの役割は、問題が何かを特定し、どのレベルの人とも相手の視点からその問題について話をすることができることです。これら全てのことを考慮に入れることで、問題に対する新たな可能な解決策を特定し、時間やエネルギー、リソースを最適化できるのです。
プロセス
この話の流れで「プロセス」のパートに移ります。これらの異なる領域は全てつながっています。私たちは皆つながっているのです。私たちはシステムの一部であり、生きたシステム、動的システムの一部なのです。組織について考え、組織図について考える人はたくさんいます。しかしながら実際のところ、私たちというのは組織化された多くの異なる関係性なのです。では、どのように組織化するのでしょうか? また、どのように関係し合っているのでしょうか? これは、組織がどのように機能しているのかということの基礎となるものです。また、私たちにはシステムがどのように構築されるかを理解する能力もあります。どのように協働するのでしょうか? そして、このことを一度理解してしまえば、今度は影響を与え始めることができるのです。
私が根本的な問題であると考えているのは、「どのように関係するのか?」ということです。まさに今、私たちは記事媒体を通じて関わりを持っています。しかし、皆さんと私はこの記事の外でも関わりを持っているのです。そして、皆さんと私がどのように関係するのかというだけでなく、私は私自身とどう関係しているのでしょうか? ツールとどのように関係しているのでしょうか? どのように自分の会社と関係しているのでしょうか? 自分を越えて起こっている全ての関係とは何なのでしょうか? これらの関係性がシステムを生み出し、そのシステムの中に私たちは生きているのです。システムを理解することは、今日の世界に加わり、交流するために不可欠です。また、「AIは私たちのために何をもたらすのか?」という問いに向き合うためにも極めて重要なのです。
関係性を理解し、私たちが皆つながっていることを理解するーこれがまさに私が重要だと考えていることです。今、物事は全てつながっています。変な言い方ですが、アニミズムに回帰しているようなものです。つまり、私たちが行う選択、何にフォーカスするか、どこにエネルギーを注ぐかという全てが、私たちの外側に影響を及ぼすのです。私たちがフォーカスしようと決めたものは向上します。それは個人レベルの行為なのか、チームとして選んだプロジェクトなのか、または組織として進めることを選んだ取り組みなのかにかかわらずです。これは顧客だけではなく、顧客の顧客、そしてその家族やコミュニティ、グループにも波及していくのです。人間のレベルだけではなく、環境や異なるエコシステムに影響を及ぼす点についても触れています。
これは、今日では驚くべきことであり、そして胸が高鳴るものですが、私たちが行う選択というは、新たなシステムに積極的に参加することです。そしてもし私たちがシステムに影響を与えるなら、良質なデータを得ることがとても大切なのです。
ここでAIに話を戻します。良質なデータというとき、2つの異なる意味があります。問題を定義するときには、多くの異なる角度をカバーしなければなりません。そして、多くの異なる視点が必要となります。そうでなければ、盲点や無知に自らをさらすことになってしまいます。これが、後にシステムに影響を及ぼすおそれがあるのです。
私たちがさまざまな視点を持ち、組織の異なるレベルで働き異なるバックグラウンドを持つ人、そしてある問題に対して異なる視点を持つ人がいることは極めて重要です。サービスの受け手、最前線で働いている人。これら全ての人に独自の視点があり、それが問題の本質を明確に理解するために有意義なのです。
AIのトレーニングにはクリーンでバイアスのないデータが必要です。というのも、システムに入力する質がシステムから出力される質に影響を及ぼすからです。これこそ、フィードバックが極めて重要なところなのです。いったいどのように私たちの無知を知ることができるでしょうか? もしフィードバックに対してオープンでなければ、(AIの有無にかかわらず)チームとして、または組織として成長するために重要なことの1つは、進行中のプロセスの質を向上させるためにフィードバックを拾い出し、受け取って、そして統合する能力なのです。
これが適応性
私たちの適応能力は、行動によってもたらされるのでしょうか、フィードバックを歓迎する姿勢からもたらされるのでしょうか、行動を変える決断をするところからもたらされるのでしょうか? 態度を変えますか? モデルを変えるでしょうか? 結果を調整するAIモデルの話であっても、人間の持つメンタルモデルの話にもなりかねないのです。世界の見方という点で、再び話は言語に戻ります。「どのように関係するのか?」。世界の見方が、自分たちに戻ってくる情報にフィルターを掛け、最終的には自分たちが行う選択に影響を与えるのです。
異なる意見に耳を傾けるために、異なる言語に堪能にならなければなりません。少なくとも、新たな分野に入ったときにはそれを理解するために感受性を持ち、そこにある視点を受け入れる必要があります。コミュニケーションの基本的スキルとは、お互いがつながり、理解する方法を見つけることであり、それにより、私たちは真の問題点に共に取り組むことができるのです。
ここで責任が登場します。自分たちがフォーカスするものに責任があるのです。そして、その責任は、単に「個人として何をやるのか?」「どのプロジェクトに取り組むのか?」「どのような理念を支持するのか?」ということにとどまりません。それはまた、「私たちは何のために存在しているのか?」といったチームレベルの責任でもあります。または会社としては、「私たちの使命は何か?」「私たちはどのような取り組みを支援するのか?」というものです。そして、その理由はなんでしょうか?
AIにおけるガバナンスや倫理という点では、こういったものが、私たちの行動を変える推薦アルゴリズムをなぜ実装するのか、どのように実装するのかということへの安全装置になるのです。バーチャルエージェントを展開して、会話している顧客の情報を無断で収集するなら、顧客はスクリプトに話し掛けていることさえ知り得るでしょうか? 倫理とガバナンスは、深く根付いた価値観、共通の価値観をベースにしなければなりません。なぜなら、状況は法律が追いつかないほど速く変化しているからです。誰もが善意を持っていても、私たちの選択が、私たち自身がいずれその一部となるシステムにどのように影響を及ぼすかということに目を背けてしまえば、さらなる問題に陥るおそれがあるのです。
私たちの価値観が言葉を形成します。「言葉が世界をつくる」といわれますが、私たちが使う言葉は、お互いに協力し合う方法です。そして、コミュニケーションの取り方は、私たちの世界の見方から生じるのです。
次のパートでは、私たちが共に想像する世界、新しく、そして恐ろしい物事にアプローチする方法、そしてどのようにこの記事を書いたかについて触れていきます。
・パート3はこちら
※この記事は、Dano Marr氏による原文『What I Learned in creating a program about AI & Business at Hyper Island (part 2/3)』を許可を得て翻訳、編集したものです。
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。