【Hyper Island Japanファシリテーター紹介】萩原幸一さん(デザインシンキング担当)
1995年に北欧・スウェーデンにて設立され、2020年11月に日本上陸を果たしたHyper Island Japan(ハイパーアイランドジャパン)。今回は、デザイン思考のメインファシリテーターを務める萩原氏に、これまでの経歴や背景、Hyper Island(ハイパーアイランド)のファシリテーターとして心掛けていることなどのお話を伺いました。
萩原 幸一氏プロフィール
1968年、茨城県結城市出身。1991年、株式会社テイ・ディ・エス入社。
導入間もないMacを使ったデザイン開発に従事した後、大手印刷会社へ出向し、業界初のDTPリファレンスマニュアルの制作に協力。1995年に、同社のインターネット商用利用実験モールで生花の通販サイトのデザイン・ディレクションを担当して以降、i-modeサイト、スマホアプリ、PRサイト、 CMS構築など、数々のデジタル系メディアの制作・ディレクションを担当してきた。2016年より新規事業開発のためのチームに所属し、同社が展開するHyper Island Japanにてデザイン思考のメインファシリテーターを務める。
Hyper Islandとは
1995年にスウェーデンで設立された、社会人向けのデジタル・イノベーション・スクール。開校以来、デジタルテクノロジーのもたらす変化を教育に取り入れ、26年間にわたり社会人向け教育プログラムの提供や、企業の戦略パートナーとしての活動をしてきた。ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、日本など世界で10か所の教育拠点を持ち、5,000名以上の卒業生を輩出。学校運営を行う一方で、コンサルティング事業も展開しており、約1,200社の企業に対しデジタル化推進の支援を行っている。
デザインの道に進んだきっかけ~デザイナー時代
–テイ・デイ・エス(以下、TDS)に入社後、デザインの制作やディレクションをされてきたそうですが、デザインの道に進んだきっかけを教えてください。もともと興味があったのでしょうか?
子供のころ、両親が教員で、共働き家庭だったので、一人で黙々と遊ぶのが得意だったんです。漫画やアニメが好きで、いつも広告の裏に落書きをしているか、粘土をこねて何かを作っていました。そのまま三つ子の魂でというのもあると思います。ただ、親兄弟に教師が多いと、他の大人達から、「大人になったら先生になるんだよね」と必ず言われるんです。それがすごく嫌で。小学5年生くらいで自我が強くなってきたときに「僕は絶対先生だけにはならん!なるんだったら漫画家になる!」と、親と本気で喧嘩をしたことがありました。その記憶が強く残っていたので、先生にはならないけど、絵や何かを造る仕事で食べていきたいと思っていたんです。
初めは漫画やアニメ制作の道に進もうと考えていたのですが、私の時代ではまだまだメジャーな職業ではありませんでした。そこで、もう少しメジャーなところで、イラストや本の挿絵などの方向であれば進めるのではないかと思い始めて、高校の恩師の勧めでデザイン系の学校に進み、デザインスタジオに勤めました。漫画やアニメからは少し離れましたが、少しずつ曲がって曲がってここに辿り着いた感じです。
ところが、今はデザイン思考のファシリテーターをしており、ともすると先生と呼ばれることがあります。「私は先生ではなくファシリテーターです」と必ず訂正していますが、私を知る人からは、「やはり血筋だね」と言われ、苦笑しています。
–子どもの頃から好きだったことがお仕事につながったんですね。DTPからデジタル系のほうにいかれていますが、それは時代の流れだったのでしょうか?
先ほど物を造るのが好きと話しましたが、実は壊すのも好きで、ネジをみると外さずにはいられないという(笑)。なので、機械やパソコンには全く抵抗がありませんでした。
時代の流れもあるのですが、父が早くからパソコン(WindowsやMS DOS以前)を使用しており、NEC 8001mk2をおさがりでもらっていたので、パソコンに触れるのも早かったと思います。
私がTDSに入社した頃は、ちょうどMacが日本で販売され、クリエイティブ系の学校やオフィスが新しいツールとして導入を検討し始めた時代だったため、TDSでもMacを業務に活用するために研究するチームがつくられました。そこで、パソコンを使ったことがあると研修時に話をした私に声がかかったというわけです。私にとってはとてもラッキーでした。
その後、大手印刷会社様のDTPの商用化プロジェクトチームに入り、業界初と言われる業界向けのDTPマニュアル作成に携わり、そのプロジェクトチームを離れたあとは、デザイナーとしてDTPの仕事をしていました。
次の転機は1995年にインターネットが話題になった頃。「インターネットっていうのがあるらしいけど、どう?知ってる?」と上司から聞かれ、パソコン通信をやっていたので多少の予備知識と機材があった私は、本を買って独学でhtmlを書いて「なんかできそうな気がする」と思ったんです。それをきっかけに、Webのお仕事をするようになったという流れです。
–本当にインターネットの黎明期からなんですね。
そうなんです。これも時代の流れとも言えるし、ラッキーとも言えますね。
デザイン思考、Hyper Islandとの出会い
–現在は、デザイン思考のファシリテーターをメインでやられていますが、どのような経緯だったのでしょうか?
最初にデザイン思考と出会ったのは、IDEOの創業者 ティム・ブラウン氏の著書『デザイン思考が世界を変える』が文庫本化された2014年ごろのことです。たまたまそのタイトルが目に入り、自分のデザイン力やテクニックに使えるものなのかと思い、手に取りました。そして、書いている内容に感銘し…というなら綺麗なのですが、正直、自分の求めていることと違った内容なので、そのときは全く頭に入りませんでした。
その記憶があるうちに、制作業務から離れ、新規事業開発の準備をするチームに転任になりました。そのチームで活動するにあたり「デザイン思考」がキーになるということで再学習したんです。それも、講習や座学ではなく、デザイン思考のメソッドのインプットを受け、仮想プロジェクトを設定し実際にプロジェクトを進めるという方法でした。実際にユーザーリサーチからプロトタイピングまでを行い、初めて「デザイン思考」の意味を理解し腹落ちさせることができました。
–その新規事業が、Hyper Island(ハイパーアイランド)ということですね。新しいことに挑戦できそうな人という認識があったのでしょうね。
良く言うとそうだと思います。私と新規事業、Hyper Islandの共通点は何か?と考えると、テクノロジーに抵抗が無い、むしろ大好きということと、新しいものに怖がらずに飛び込むということの二点だと思っています。
私が「デザイン思考」を身に付けられた理由も、やはりそこだと思うんです。学問や研究として「デザイン思考」を捉えるというより「デザイン思考」の実践者として吸収しているという部分が大きい気がしています。
Hyper Islandのファシリテーターとして
–Hyper Islandのファシリテーターは、講師や先生とは少し違い、受講生自身が探求することを促し、サポートする立場ですが、大切にしていることや心掛けていることはどんなことでしょうか?
参加していただく方の知識やモチベーションは様々ですから、常に同じセッションにはなりません。「デザイン思考」としてお伝えするエッセンスやキーワードは共通していますが、同じ語りや、同じ事例だけではなく、参加者の中に入りやすい工夫はないか考えながら進めています。
参加者の表情を見ながら、納得しているか、あやふやに伝わっていないかを気にしながら進めていますが、大丈夫かな?と思うときは、他のファシリテーターとその場で相談し、順番を入れ替えたり、追加の時間を取ったり、休憩を入れるタイミングも大事ですので、その分タイムラインを調整するなど、実はいろいろ裏側で調整をしています。
ですので、「なるほど」「スッキリした」という表情をしていただけたときは一番安心できるし、嬉しく感じますね。同様に、次の講座や、別の機会にお会いして話したときに、コースの中で使った用語や、言い回しがご自分の言葉として出てくるようなときには、胸の中でニヤニヤしてしまいます。
–リアルタイムでバランス調整したりって、音楽でいうとジャズのセッションにもたとえられそうですね。
譜面は一応あって、入りと終わりは決まっている中で、どこでオカズを入れるか、客をのせていくか、というのは確かに似てますよね。同じ考え方だと思います。「スタートとゴールは設定し、途中はその時々にあった方法を選ぶため、幅を持って考える」というのはもともとHyper Islandの考え方にあるので、それを本当に地でやっているだけなんです。
–一緒にファシリテーターをやられている杏奈さん、千さんとの連携や役割分担はどのようなことを意識されているのでしょうか?
ワークショップでの役割は、事前に確認し設計しますが、普段は意識して役割分担をしている感覚はありません。それぞれの個性というか為人(ひととなり)があり、得意・不得意もありますので、お互いがそれらを把握しているところは強くあると思います。その上で、自分が得意な部分は惜しみなく出し、相手の得意な部分は信じて任せる。不得意な部分は積極的にサポートすることを意識しています。
これは、組織文化の形成やチームビルディングで言う、OpennessとTrustの考え方だと思います。
–最初にかっちり役割を決めるのでなく、走りながら変えていったり、バランス調整している感じも、Hyper Islandの思想そのものですよね。
はい、まったくその通りで、私たちも教える前に自分たちで実践している感覚があるんです。たとえば、チームビルディングの話をする場合でも、実は私たち自身がチームビルディングをするときに、実際にこんなことがあったな、こんな考えが有効だったな、と実感を持って語っていたりするんです。ですから、私たちがHyper Island Japanとして育っていくことが、Hyper Islandの教えを学びながら試しながら実践しているということだと考えています。
–学びながら試しながら。まさにHyper Islandの学びの根幹である『Learning by doing』ですね。
私自身のこれまでの成り立ちも『Learning by doing』でした。
時代の変換点(変革期)には、必ず、初めてだけどやってみようというタイミングがあり、そのときにチャレンジできるかで、その後の動きが変わってくると感じています。そのときの思考は、「学びながら、実践する」「考えながら、動く」の連続だと思います。何事でもそうですが、初めてには失敗は付き物で、できれば失敗したくはありません。過去には、自分の思考も社会の傾向も、失敗をゼロにしようと考える傾向が強かったのではないかと思います。しかし、最近は大怪我しないように、どこまで出来るか?という考えに変わってきました。
Hyper Islandの受講をおすすめする人
–特に、どんな方にHyper Islandの受講をおすすめしたいですか?
もちろん様々な方に受けてほしいと思っているのですが、もともと、このHyper Islandの事業は、世界の中での日本のプレゼンスを上げていこうという目的で立ち上げたので、これから世の中で前に立っていく人たちにはぜひ早く体験していただきたいと思っています。一概に年齢が若い方というくくりではなく、前に立って進んでいこうとしている方、そしてまだそこに踏み切れないが進みたいと思っている方は、チャレンジの一つとして、何をやっているのか知ってもらえるといいなと思います。
この数年自社内でもやらせてもらっているプログラムを「アクセラレーション」と呼んでいますが、加速させる、後押しをするという意味合いなんです。ダッシュをかけたい、勢いをつけたいときのひと押しになり、加速していくきっかけになっていけたら嬉しいです。
–たとえば、新しいテクノロジーやデジタルに苦手意識がある方でも、Hyper Islandの学びを持ち帰ることができますか?
受講する時点で、知識がある必要はありません。Hyper Islandの学びは、一見突拍子もないようにも見えて、実は理論的なんです。ですから、なぜこの話をしているのだろうと考える事で、最終的には納得がいくところに辿り着けるようになっています。大きくそれに影響を受ける方と、小さく影響を受ける方がいらっしゃるかもしれませんが、何か刺激を与えるきっかけには必ずなっていると思います。
–最後に、受講を考えている方へメッセージをお願いします。
「知識と実践は違うと解っている」というのも、実践が伴わなければ知識でしかないかもしれません。
Hyper Islandのオープンコースは安全に転べる運動場です。もしかすると、ちょっと擦りむくこともあるかもしれませんが、一度走り切ると、なにか爽快感が得られると思います。そんな気分で、ご参加いただけると幸いです。
Hyper Island Japanでは、萩原さんがファシリテーターを務めるアクションラーニングプログラムの受講生を募集しています。お申込みはこちらからどうぞ。
https://www.tds-g.co.jp/hij/action_learning/
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。