遊びを通じた学びをいかに取り入れるか
子供のころの遊びを覚えていますか?知らず知らずのうちに創造性にあふれていて、作戦を練ったり想像の世界の難問をクリアしたりして過ごした子供時代の気ままな時間。それは良いことだったのかもしれません。想像してみてください。一人前の大人になって、そんな遊び心を取り戻し、学びの中に取り入れることを。ここでは、遊びを通じた学びがどのように創造性や協調性を向上させ、モチベーションを高める考え方に影響を与えるかについて目的を持って考えているハイパーアイランドのリーダーたちに話を聞きました。
「大切なのは、スクリーンを通して多くの内容を押し出すことではなく、教える内容が十分に理解され、学生たちが関心を持っているかを確認することです。私は、教育はエンターテイメントでもあるべきだと、自信を持って言えます。」
-Kevin Sanikidze ハイパーアイランド Upskill Programs プログラムマネジャー
遊びを通じた学び
ハイパーアイランドでは昨年、24あるプログラム(オンサイト、ハイブリッド、完全オンライン)の多くをリモートで行いました。これは誰にとっても挑戦であり、私もその例外ではありませんでした。
「しかし、このような状況において重要なのは新たな現状を受け入れることです。私はリモートワークのムーヴメントに抵抗せず、流れに逆らうことはしませんでした。」
この変化はいつか来るだろうと思っていましたが、パンデミックによって確かに加速しました。だからこそ私は適応しようとしたのです。
私たちプログラムマネジャーにとって、これは新たな環境に適応し、多くの変化を取り入れることを意味していました。物理的な活動を単純にデジタル化することはできませんし、すべてがオンラインプログラムに適しているとも思えません。私たちは活動のすべてをを考え抜かれなければなりません。教育活動はもちろん教育的でなければなりませが、教育活動は同時に人間中心でなければなりません。つまり、人間のニーズを考慮する必要があるのです。
Upskill Programsでの遊びを通じた学び
Upskill Programsは2020年の後半に第1弾を開始した、ハイパーアイランドのプログラムにおいてもまだ新しいプログラムです。ここには、会社勤めをしている傍らでスキルを向上させたい、新たなスキルを身に付けて別の業界に転身を遂げたい、またはコロナ後の世界で雇用可能性を広げたいという学生たちが集っています。
学生はリモートとパートタイムの両方で勉強しており、集まりのタイミングは年間を通じて計画されています。通常こういった集まりは対面で行われますが、現状ではこれもリモートで行われています。
2021年の初めに、同僚であり2つのUpskill ProgramsのプログラムマネジャーであるJenny Bergmanが、UX DesignerとBusiness Developer with Digitalization and Sustainability の集まりに私を共同ファシリテーターとして招いてくれました。これらを企画するに当たり、デジタルでのワークショップ以外では顔を合わせる機会がない学生同士に交流を深めてほしいと思いました。また、学生には新しいことを学んだり、楽しんだり、積極的に参加したり、仲間意識を感じてもらいたいと思っていました。
「いろいろな目的がありました。ここで、物理的な現実とデジタルな現実を融合させた活動を学生に提供するためのアイデアが生まれたのです。」
結果的に、遊びを通じた学びが生まれました。私は後にこれを「Household Rainbow Challenge」と名付けました。
それは次のようなものです。
ステップ1:
リモートセッションの参加者は、与えられた15分の中で家の中にある物を使って「虹」をつくってもらいます。時間が限られているので迅速に行動し、創造性を発揮しなければなりません。
ステップ2:
家の中からカラフルな物を集めることで、スクリーンから離れる口実が生まれます。フルーツや野菜を使うと、良い結果が出せます!唯一制限されるのは、例えば色鉛筆のような複数の色からなる同じ物を使うことです。それでは簡単過ぎます!
ステップ3:
集めてきた物を正しい順番で配置し、皆が見られるように写真をアップロードします。参加者が体を動かして元気になるだけでなく、Household rainbow challengeは相手をもっと知ることもできるのです。作品をつくるために集めてきたアイテムは、思った以上に作者について物語っているのです。例えば、子供のおもちゃ、ヨガマット、テニスラケット、仏像、そしてお菓子作りの道具などがありました!
遊びを通じた学びは、(バーチャルな現実と物理的な現実との融合という)非常に具体的な目的を念頭に置いて生まれましたが、最近では他のUpskillクラスでもお決まりの活動となりました。これは、私たちハイパーアイランドのプログラムマネジャーが、体験型学習を提供するために常に絶えずアイデアを出し、革新し、そして創造するというミッションの一環として行っている一例です。
「遊びは気分を高めるエンドルフィンを放出し、やる気が出たり幸せな気分にしてくれます!」
-Dawn Hoenie ハイパーアイランド チーフメソドロジスト
世界を理解するための学び
遊びを通じた学びとは、子供たちが実社会を理解する方法です。子供たちは遊びを通して、認知能力やコミュニケーションスキルを高め、感情をコントロールすることを学び、そして自信を得ていきます。遊びは、多くの子供たちが探求し、実験し、そして理解していく重要な手段です。遊びは身体的なものだけではなく、認知的、想像的、創造的、感情的、そして社会的な側面を含むこともあります。また、子供時代の遊びは記憶力を高め、大脳皮質の成長を促すという研究結果もあります。
遊びは創造性や批判的思考能力を高め、チームワークを促進します。大人になると遊びをやめてしまい、真面目になってしまいがちですが、実は、遊びのメリットは多岐にわたります。
遊びは子供にとってのみ重要だということではありません。遊びは大人にとってもリラックス効果があり、元気にさせる燃料にもなります。友人、愛する人、ペット、子供そして同僚と遊ぶことで、想像力、創造性、課題解決能力そして精神的な健康が高まります。さらに、大人の遊びというものは楽しくて創造的な方法で私たちを社交的にさせてくれるのです。
仕事での遊び
ここで、仕事の中に遊びを取り入れるメリットを幾つか紹介します。
•心と身体の充電
•創造性とイノベーションの育成
•ストレス下における機能改善
•チームワークの促進
•創造性とイノベーションの誘引
•創造的な課題解決へのサポート
遊びを通じたリーダー向けの学習
リーダーとして遊びを積極的に取り入れることで、つながりのある、創造的で、好奇心にあふれ、学びがあり、そして革新を生みやすい職場文化が醸成され、それによって今度は同僚たちが共に変革したり、共に取り組んだりするようになります。
この点についてもう少し詳しく見ていきましょう。
遊びを取り入れた学習に触れる機会をつくり、創造的な思考を高める
ハイパーアイランドでは、学びの機会を活用しようと、創造性を育む活動をたくさん行ってきました。ここで遊びによる学びのアイデアを幾つか紹介します。
•成長に必要なマインドセット、データやチームワーク等について学ぶデジタル脱出ゲームの開催。
•データ、プラットフォーム、技術そしてツールを学ぶ殺人ミステリーの開催。
•チームワーク、グループ学習、実行そして振り返りを学ぶデジタルホワイトボード上での共同作業。
出典:Miro/Mural digital whiteboard, Kanban pizza game (to learn about principles of agile/lean).
学習シナリオのロールプレイを行う
例えば、参加者がアイデア、理論、またはペルソナなどの役割を担い、ほかの参加者がロールプレイを行います。その後、グループでの振り返りやディスカッションを行い、内容やアイデアを探っていきます。
フィクションをつくるのではなく、テーマについて本当に重要なことを明らかにするためにストーリーテリングを試みる
ストーリーテリングには昔からアイデアを理解し探求するという重要性があり、学習者の想像力を働かせ、学習を意味あるものにする、私たちが持つ力強い認知ツールです。
同僚との楽しい交流の機会を促進する
ハイパーアイランドでは、金曜日の朝8時30分に、1日の始まりとして(営業担当のスーパースター)DJ Jimboによるオンラインダンスパーティーを行っています。このパーティーは人とのつながりやエネルギーに満ちていて、1週間の仕事の成果を祝うタイミングでもあります。
PCから離れて体を動かすことで同僚たちに刺激を与える
つまるところ、チームメンバー同士で同じ時間を過ごすことをお勧めします。私たちが気に入っているのは散歩をしながら話すことです。お互いに仕事の話だけをするのではなく、つながりを深め、健康、アイデアそして遊びを促進するために、感覚的なこと(見たもの、感じたこと、聞いたこと、感じた匂いなど)について共有してもらいます。
遊びを通じた学びは、多くの組織でさまざまな形で応用されています。想像であれ、実例であれ、イノベーションや実行による学びは常に現実の文脈の中で実践することができるのです。遊びを通して、創造的な考えが浮かび、可能性が生まれ、想像力と現実が実質的に結びつくのです。
あなたのチームでは、どのようにして遊びを通して学ぶことができるでしょうか。
「個々人が知識や新たな習慣を身に付けることができる最高の学習環境をつくるために、遊びが大きな役割を果たしているようです。」
-Veronica Magarinos Turner ハイパーアイランド ファシリテーター&ビジネスリーダー
幼少期の起業家
鮮明に覚えているのは、私が8歳か9歳ぐらいのときに友人が遊びに来て、いつものあいさつを交わしてから「何して遊ぶ?」と質問したことです。家の前の庭に店を開いて、通りすがりの人や近所の人たちと漫画や雑誌を交換したりと、無限の可能性がありました。他にもおままごとをしたり、母親が育てていたバラの花びらと水で香水をつくって売ったりもしていました。
そのときの気持ちを思い出すことができます。魔法のようで希望にあふれ、好奇心と夢中さが入り混ざった信頼に満ちた開放感。どうなるかなんて気にもとめない。それは、遊びモードのときは今を強く感じ、今ここに集中しがちだからかもしれません。それはあたかも、ほかには何も存在せず、これが私たちの世界の全てだという感覚なのです。
これが、私にとっての遊び心です。
遊び心を使って学習効果を高める
継続的な学びは新たな競争上の優位性であることは誰もが認めるところです。それは当然です。というのも、ほかにどのようにして絶えず変化する環境を渡っていけるのでしょうか? しかし、これについては真新しいことは全くなく、昔から人間は常に学んできたのです。そうやって私たちが生き残り、栄えてきたのです。
「変化が加速するにつれ学習曲線は急カーブを描くため、私たちの学びに対する取り組みは、より目的意識を持ち、しっかりと計画し、こだわりを持たなければなりません。」
個々人が知識や新たな習慣を身に付けることができる最高の学習環境をつくるために、遊びが大きな役割を果たしているようです。
ゲーム業界では長きに渡り、遊びが学習やチームワーク、そして学習のプロセスにおいて基礎となる役割を果たす重要な認知、感情的要素において、戦略的思考、創造性、そして協調性といった一連のスキルの獲得を促進することが認識されています。
それでは、なぜ学びと遊びがこれほど密接に関わっているのか、その理由を理解するために、少し神経科学的な視点を取り入れてみましょう。
何かを学びたいと思うと、脳では何が起こるか?
何かを学ぶということは、それまで知らなかった知識やノウハウを得るということです。それは「居心地の良い」場所ではないかもしれません。というのも、私たちはすでに知っているものから安心感や自信、そしてアイデンティティーを得るからです。
脳はできる限り多くの時間を反射モードで過ごしたいと思っています。エネルギーを使わず、拡散した光のように、特に何かに集中するでもなく楽なことをして過ごしたいのです。
「私たちは学習が常に楽しくもなくゲームでもない、努力や労苦であると知っていました。これを認めることによって、諦めの人生ではなく、学びの人生を歩み続けることができるのです。」
学ぶためには集中する必要があります。集中しようとすると、脳は前頭前皮質やほかの要素を含む一連の回路を切り替え、神経学者のAndrew HubermanがDPO(期間、経路、結果)と名付けたものを理解しようとします。DPOとは、作業に掛かる時間、やり方、そして結果が含まれます。最近の新型コロナウイルス感染症を例にとると、脳はDPOをフル稼働させ、状況を把握し、やるべき仕事の範囲を必死に把握しています。
脳を集中させようとするとき、この評価を行い、脳幹と体内にアドレナリンを分泌させ、それが警戒感、軽い不快感、そして不安と動揺といった状態にさせるのです。
遊びのある学びを支える科学
Carol Dwekは、著書である『マインドセット「やればできる! 」の研究』のための研究をしていたときに、算数やパズルが得意な子供たちを調査しました。その子供たちは、簡単には解けないと分かっている問題に楽しんで取り組んでいました。その子供たちにとっては、問題を解く過程にやりがいや楽しみを見出していたのです。
遊びが重要な要素である子供たちにとってそれは簡単なのです。私たちは年齢を重ねるにつれて活動が楽しくなくなり、大人の脳は学習したアルゴリズムを変えるためにかなりの労力が必要になります。しかし、注意力と集中力を同時に引き起こすことができると、神経化学物質が収束して、学習のためのシナプスを形成するのです。
「何かに身を乗り出そうとしているのに集中できないという最初の段階で感じる動揺やストレスは、集中の要素にたどり着くために通過しなければならない登竜門なのです。」
粘り強く続けていると、努力が報われ、喜びや低めの興奮を感じ始めてきます。
遊びと学習は神経伝達物質の回路という形で密接に結びついています。神経伝達物質はやがてさまざまなタイミングで誘引され、経験に反応する脳内の変化である神経可塑性のプロセスが始動します。
たとえ大変な努力をしていても、アドレナリンのおかげで良い気分でいられるのです。なぜなら、アドレナリンは正しいと思う道を進んでいることに対して報酬を与えてくれるからです。動揺やストレスの段階を経て、なんとか忍耐強く学習の道を歩み続けるとドーパミンを含む報酬系回路が登場します。ドーパミンが神経可塑性の過程においてここまで強力であるもう1つの理由は、ドーパミンがアドレナリンを和らげる能力があるからです。どういうことかというと、ドーパミンの存在によりアドレナリンが一定の閾値に達することを回避し、その時点で脳は「はい、ここまで。もうやめる。」と言います。ドーパミンはアドレナリンを抑え、前進させ続けてくれるのです。
つまり、動揺やストレスの門をくぐり抜けて、知識を獲得する注意力や集中力のある状態に入ることでドーパミンが分泌され、報酬を得ることができるのです。
遊びやユーモアで誘発されるドーパミン
チームの一員となり狂ったように働き、最悪の状態に陥っているとき、誰かが冗談を言うと、ほんの一瞬前にはなかったエネルギーが突如として湧いた、というような経験はありませんか。ある種の緩みや軽さが起こります。これが神経系のエネルギー、ドーパミンです。
ドーパミンはこの内的報酬をもっともっとと求めます。そして、ドーパミンは今起きていることはすべて良いことだという信号を送るため、ドーパミンと関連する出来事を忘れることはめったにありません。このようにして、遊びのある環境で学んだことは記憶に残りやすくなるのです。
ただし、深い眠りと休息が基本であるということを忘れないでください。なぜなら、(学習を可能にする)神経可塑性は強い集中力によって誘引されるのですが、それは深い眠りと休息の間に起こるからです。
※この記事は、原文How you can adopt a successful learning through play approachを、許可を得て翻訳、編集したものです。
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※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。