Hyper Islandオープンコース日本上陸!〜今、日本にHyper Islandが必要な理由〜
デジタル版ハーバード大学とも称され、世界中で「時代の求める人材」を輩出し続ける北欧・スウェーデン発祥のビジネススクール「Hyper Island」。いよいよ、2020年11月に日本で初のオープンコースが開催されます。
その立役者となったのが、株式会社TDSの取締役である、MIHO.M氏。
老舗のデザイン会社であるTDSが、なぜHyper Islandと組み、日本での開催を実現させたのか。同社が海外展開を進める理由、Hyper Islandとの出会いから日本でのオープンコース実現までの道のり、さらに、背景にある想いや、今後の展望についてお聞きしました。
MIHO.M氏プロフィール
–MIHO.Mさんのこれまでのご経歴について教えてください。
アメリカの美術大学を卒業して、2年間現地(ニューヨーク)のデザイン・スタジオでデザイナーとして働いていました。アメリカでは、「自分で生き抜く力」がものすごく身につきましたね。「自分の考えを主張する」とか「自分のアイデアを通す」とか「遠慮していたらダメ」など。ニューヨークでは、仕事も自分で開拓し、猛烈にアピールしなければなりませんでした。ただそんな生活も5年位していると疲れてしまって、1994年に帰国しました。帰国して最初に入社した会社がTDSだったんです。
4年ほど勤めたあと転職し、3社経験をしたのですが、3社とも共通し海外とのビジネスに携わってきました。転職する度に、新しい学びがあり、継続的に自分のプレゼンスを上げることを考えてきました。
そして、2016年に、現役員たちから「新規ビジネスの立ち上げをやってほしい」とのオファーを受け、17年ぶりにTDSに参画しました。
日本でイノベーションがなかなか進まない理由
–新規事業は具体的にどのようなことに取り組まれたのでしょうか?
これまで何年も海外企業とのビジネスをする中で、テクノロジーに関しては、日本は2016年時点で少なくとも5年くらい遅れているという実感がありました。アジアの中でみても、中国、シンガポール、台湾から遅れをとっており、非常に危機感を持っていました。具体的には、産業の中でのデジタル化、オートメーション化、AI、ブロックチェーン、それにともなう生産性の向上などですね。
個人的な見解ですが、イノベーションが進まない原因の一つは、日本の旧態依然とした企業文化や構造がなかなか変われないことにあると思っていました。DXが進まないこともそれが一因ですよね。TDSも当時は創業36年の老舗デザイン制作会社で業界内では優れた会社ではありますが、イノベイティブな会社ではありませんでした。
変革を起こすためのプロセスが全然違って、日本はツールやソリューションから入る傾向があります。でも、マインドセットが変わらないと、いくら素晴らしいツールを導入したところで会社は変われません。改革する、変化をするというマインドセットが日本人には圧倒的に足りていないと感じています。
ですからまずTDSに参画して最初に取り組んだことは、160人のクリエイターに対し、デザイン思考のプログラムの導入を行いました。12週間のプログラムで週1回4時間、クリエイターたちに学んでもらいました。デザイン思考のプロセスを通じ、しっかりマインドを整えていくという事が目的でした。
「先駆者に学べ」
次に取り組んだことが、海外へのアプローチです。
新たな技術に関しては「先駆者に学べ」というのが私のモットーで、常日頃からトレンドは追っており、海外から新たに学ぶものはないか?それらを持ってこれないか?ということは常に考えていました。
そこで、「先駆者=テクノロジーを持っている人に会いにいこう」ということになったんです。
リサーチには力を入れました。マクロ調査から始まり、「我々が会うべきデザインファームは?」ということを議論し、数週間に渡りデスクトップリサーチを行っていきました。
2016年当時は、「UX」「デジタルテクノロジー」「デザインファーム」等のキーワードで検索し、訪問企業先の調査を経てアポイントをとっていくんです。この一連のプロセスは2〜3ヶ月かけて行いました。
そうして調べた総数でいうと2000社を超え、そのネットワークが我々の財産になっています。協業したり、我々が日本企業との架け橋役になったりもしています。
当初、メールや問合せフォームからのコンタクトで興味をもってくれるのかという懸念もあったのですが、わりと日本企業に対しては好意的で、コンバージョン率はよかったです。中には、訪問直前でドタキャンされたこともありましたが、数は少ないです。(苦笑)
–10ヵ国、46社の会社を訪問されたそうですが、視察ではどんなことを?
お互いの企業紹介、訪問先の会社のサービスや製品のプレゼン、そして訪問の目的を明確に伝えて、協業の可能性を探りました。当社と親和性の高いソリューションがあったら、彼らのソリューションを実際に試してみるということも行いました。
海外では、日本のように「持ち帰る」というのはNGなんです。
ミーティングの終わりで一定の結論や方向性を示さなければいけない。
ですので、私も含めてですが必ず決裁権限者も同行しました。
お会いしてその日のうちにお礼のメールを出して、詳しく知りたいのでNDAを送りますということを滞在中にやりとりする事もありましたね。
Hyper Islandとの衝撃的な出会い
-Hyper Islandに訪問したきっかけと、訪問時のことを教えてください。
2017年10月のことです。スウェーデンの視察の中で、教育機関であるHyper Islandはもともと最有力候補には入っていなかったのですが、面白そうだからここも訪れてみようということになって、打診をしたら快く受け入れてくれました。
ただ、ストックホルムの本校訪問してみると、驚きの連続でした。
まず一番びっくりしたのは、広々した空間の中に教室がないんです。
一応、グループワークをするためにガラスに囲まれたコンパートメントはあるのですが…
「講師は何名いらっしゃいますか?」と聞いたら、「我々は講師を持ちません。教科書もありません」と。目からウロコでした。
Hyper Islandには世界中から様々な人が学びに来ていました。
企業から派遣されて1年半、マスターコースを学んでいる人、パートタイムで学びに来ている人、すでに他の修士(マスター)を持っているのに、また取りに来た人など。生涯学習のあり方が全く違うということにも驚きました。
–他にはどんな感想を持ちましたか?
「これはまだ日本にない」と思いました。
Hyper Islandのメソッドとかモジュールというものが、様々な角度から今までの概念、学びやマインドをリセットするものであったり、新たなビジネスの発想方法であったり、参加者同士の対話を通じて個々が内省し、振り返りから学ぶプロセスというものだったので、今の日本に必要なプログラムだと感じました。
また、Hyper Islandは大企業やスタートアップなどのコンサルに入ることもあるのですが、「〇〇しなさい」ということは一切ないんです。「我々はどうすればいいですか?」と聞くと、「あなたはどうしたいですか?」と返ってきます。「これはあなたのビジネスです、私たちはあなた達のビジネス変革を促す存在です。」と。ただ、その気づきを与えるきっかけや刺激をいろいろなところに散りばめてくれる。なおかつ、勇気を出して1歩踏み出すことをちゃんと後押しし、併走してくれるんです。こういうコンサルの形があるんだというのは衝撃でしたし、魅力を感じました。
–その後の流れを教えてください。ここまでは順調に進んだのでしょうか?
本校に訪問したときに、「あなたたち日本から来たんでしょ?ぜひ現在シンガポール校にいるHyper Island創立者のジョナサンに会ってほしい」と言われて、早速翌年の1月にシンガポールへ訪問しました。
ジョナサンは親日家で、協業に関して非常に前向きだったので、割と話は早く進みました。
我々からも今後Hyper Islandを広める上でのアイデアなどを聞いて、その後日本に来て講演をしてもらったり、3日間のワークショップを開催したりと、1〜2年かけて共創関係を深めていきました。
3日間のワークショップでは、独立してベンチャー企業の経営をしている方、ベンチャーキャピタル、大手メーカー勤務の方など様々な属性の方に参加していただき、お陰様で大変好評でした。
最終的にHyper Islandとオフィシャルパートナーになる前に、日本でどう広めていくかという戦略的ワークショップをシンガポールで開催しました。そこで我々が腹落ちするような戦略を立てられたんです。それが2019年のことでした。
ただ、決して順調にきたわけではなく日本でHyper Islandを認知してもらうことは今も苦戦しています。なかなか日本の企業にはHyper Islandの学びの深さが伝わりづらいこと、そして新しいものを取り入れることに障壁が多いという印象です。
そのマインドセットを変えるためにHyper Islandがあるのですが、なかなか導入してもらえないというジレンマがあります。
ついに、日本でのオープンコース開催が実現
–今月11月、いよいよオープンコースが日本で初開催されます。Hyper Islandのプログラムを日本に持ってくる上でどんなことが大変でしたか?
数あるコンテンツを体験し、日本人にとって魅力的なものを抽出して、ローカライズし、まずは社内に対してテスト提供し、チューニングをかけていきました。そっくりそのままローカライズするのではなく、日本人向けにアレンジをしています。
当社のラーニングデザイナー、ファシリテーターがすべてのコースの設計をしていますが、事前準備にはとても時間をかけました。
また、本来は春先に対面での開催予定だったのですが、コロナの影響で延期になり、オンライン開催ということで設計も1から作り直しました。オンラインだと、熱量とか、ちょっとしたニュアンスを感じ取って細かなサポートをすることがなかなか難しいんですね。そこはファシリテーションする際に苦労する点だと思います。
–これまではシンガポールやスウェーデンまで行かなければ受講できなかったプログラムが日本で、しかも日本語で受講できるのは、凄いことですよね。
はい。前回の3日間のワークショップのときは逐次通訳が入ったので、1.5倍から2倍くらい時間がかかったんです。その間のモチベーションとかテンションを保つのが結構難しかったので、日本語で受講できるのは受講生にとってより意義のあることだと思います。
今回のオープンコースは何かしらの専門スキルを磨くためというものではありません。デザイン思考など変革を推進するための様々なレンズ(視点)を組み合わせてHyper Island Japanとしてのプログラムを提供していくという形になります。
–最後に、Hyper Islandにかける想いや、今後の展望についてお聞かせください。
「『自分の会社さえよければいい』ではダメ」というのは私の信念として持っています。日本の技術力は確かに素晴らしいものがあり、実際にイノベーションを起こしている企業やスタートアップもあるのですが、立ち上がりのスピードの遅さであったりとか、何よりも日本経済を動かしている大企業がさらに早いスピードで変化していかないと、この先も厳しいという危機感は前々から持っていました。日本社会、経済を少しでも良くするお手伝いをし、「世界での日本のプレゼンスを上げていく」ことが、我々のミッションであり、スローガンです。
そのためには成長スピードが全く違う点においても、アンテナの感度を高くし、海外と組んでいくというのが一つの有効な手段だと思っています。
たとえば、2017年にラスベガスで行われたCESという家電見本市ですが、世界中の企業やスタートアップが近未来の製品をお披露目するビッグイベントです。
スタートアップブースでは、どう見てもボロボロのプロトタイプが並んだり、可愛くない試験ロボットがウロウロしていたり、多くの未完成品を見て驚きました。
我々通常では、ピカピカの完成品をお披露目するのが当たり前だと思っていたので、正直「あっ、これでいいんだ、スピードってこういうことなんだ」と直感しましたね。
印象的だったのは 2017年はドローン元年と言われていましたが、人が乗れそうなものからスパイで使えるような小さなものまで、日本にはまだ無かったものがすでに3年前にそこで商品化されていたわけです。
とにかく、「手に取れるもの、見えるものを早く作れ」というのが彼らスタートアップのモットーなのです。
そんなことも、Hyper Islandのプログラムには組み込まれています。たとえば、実際に手を動かして「1時間でこれとこれを使ってこういうものを作って」という課題もあります。
Hyper Islandは答えや正解を教えてくれる学校ではありませんが、いろいろなきっかけを与えたり、あの手この手で考え方を変えるお手伝いをしたり。多種多様なアプローチで、自分で考え変革できるようにしてくれます。ぜひ、多くの方に受講していただきたいです。
そのためには、まずはコツコツと草の根活動で、もっとHyper Islandのファンを増やしていきたいです。そして、シンガポールと密に連携して新しいプログラムもどんどん作っていきたいですね。
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。