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心に残るドラマティックな学習の場をデザインする方法

2021.10.01 更新

#Hyper Island#チームカルチャー

今回は、Hyper Island(ハイパーアイランド)創始者である、Jonathan Briggs/ジョナサン・ブリッグス氏の記事をご紹介いたします。ジョナサン氏は、デジタル、組織改革、高度な教育におけるThought Leader(ソートリーダー)であり、 変革を牽引すると共に考え方を発信する人でもあります。「Lerning by doing(手を動かしながら学ぶ)」というHyper Islandのコンセプトのもと、生徒やクライアントを巻き込む革新的な学習方法をデザインし続けるジョナサン氏ですが、より心に残り、影響力のあるセッションを実現するために、ゲームデザイン、映画製作、ストーリーテリングや演劇などの他の分野からのアイデアを取り入れているとのことです。どのようにアイデアを取り入れ、学習セッションを設計しているのでしょうか。ぜひ記事をお読みください。

目次

    心に残るドラマティックな学習の場をデザインする方法

    【執筆者】Jonathan Briggs(ジョナサン・ブリッグス)/Founder, Hyper Island

    1996年、組織をデジタルかつグローバルに改革したいと考える個人や企業のために、Hyper Islandを創立。革新的な学びの創造者であり、IKEAやMoët Hennessy、Paul Smith、Unileverなどグローバルクライアントの戦略パートナーを務めている。OTHER media、Crimson Sunbird など自ら事業を立ち上げ、技術、アジリティ、データ、IoTや 興味深いソフトウェアのイノベーションを探求している。また、Unileverのデジタル諮問委員会に在籍し、NTUシンガポールのアジアコンシューマー・インサイト研究所の アソシエート・フェローとして勤務。過去には、ロンドンのキングストン大学でも教鞭を執っていた。

    ハイパーアイランドのデジタルマネジメント修士コースの修士レベルのモジュールから、銀行や小売業社向けの短期コースの個人セッションまで、私が学習を設計または提供しない日は、ほとんどありません。

    各セッションにおいて、ハイパーアイランドが得意とする「手を動かすことによって作り、学ぶ」という考え方を取り入れていますが、学習者が、このような学習方法が自習用のチュートリアルやオンライン講義を視聴するのとは違い、もっとインパクトのあるものだと認識してくれたときには、大きなやりがいを感じます。

    では、良いセッションと素晴らしいセッションを分けるものはなんでしょうか?より影響力のあるセッションを設計することは可能でしょうか?

    記憶に残る学習というのは、日常的に行われている”教室の前方に教師がいる”という日常的な学び方よりも効果的であり、学習者の感情を刺激する傾向があることを私たちは知っています。

    インパクトを与えるには、そのようなセッションを特別にデザインする必要があります。そのためにはゲームデザイン、映画製作、ストーリーテリングや演劇など、他の分野からアイデアを借りなければなりません。

    私が現在、学習デザインに取り入れようとしているアイデアをいくつかご紹介します。

    シーンを設定し、世界観を創造する

    私は学習者に興味を持ってもらいたい一連のアイデアを用意します。私は彼らをこれらのアイデアに取り入れる必要があります。そのためには、学習者が探求、実験、問題解決を行うための世界を構築する必要があります。これは、実際のクライアントケースでも、アイデアを前面に押し出した創作でもかまいません。

    感情的な旅と目標について明確にする

    90分(または1日、1モジュール)で自分の物語を語ることができます。その中でペースを変えて、セッションに高低差をつける必要があります。これは、課題を設定し、多少の混乱やフラストレーションを許容し、参加者が理解できるようにリソースを提供し、部分的な解決に向かって彼らを後押しし、より複雑なゴールに向かって伸ばし、成功を可能にし、成功を振り返り、セッションを終了することを意味します。私は一連の感情の原因となることを恐れません。

    チームを構築する

    私のセッションのほとんどは、グループワークを伴うため、参加者が効果的に探求できるようにチームを構築する必要があります。チームメイトに自己紹介をする時間を設けたり、頻繁に休憩を挟んだりして、人としてのつながりを持てるように心がけています。チーム間の多少の切磋琢磨により、「一緒に取り組んでいる」という感覚を強めることができます。

    体験を設計するのではなく、可能性を創造する

    セッションを上書きしても、より良い結果は得られません。私が心がけているのは、コンテンツ、課題、ツール、質問などを用意して、体験のための環境を整え、あとはそれを展開できるようにすることです。これは、特にオンラインでは特に難しいですが、最高のマルチプレイヤーゲームや参加型のストーリーテリングから学ぶことができます。話すことや指示することよりも、聞くことや感じることのほうがはるかに重要であり、特定のグループや個人に対応することが結果として大きな違いを生むのです。

    繰り返しの行動

    練習を必要とし、何度も繰り返して理解しなければならない事柄もあります。次のレベルに進むために同じアクションを繰り返す必要のあるゲームと同じように、私は同じツール、同じデータ、もしくは同じビデオを繰り返し使っても良いと思っています。また、モデル、キャンバス、チェックリストやカード(Job to be doneカードなど)などの持ち帰れるものを使うことによって、参加者が自分でセッションを繰り返せるようにしています。

    ダンジョンマスターのようなファシリテーション

    私の好きな(そして個人的には最も記憶に残る)セッションは、それ自体が生命を持つような生き生きとしたセッションです。私は課題を設定し、そして、結果に向かって勢いを保てるように時々微調整します。これは、RPGゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(※1)のダンジョンマスター(ゲームマスター※2)の役割を彷彿とさせますが、ビジネス上の課題や将来の銀行シナリオを展開する際にも適しています。どちらの場合も、学習者の思考を刺激するためのツールやリソース、アイデアが必要です。

    チャンスと驚き

    セッションを有機的に発展することを保証するには、学習者に方向を選択させ、誰もコントロールできない偶然の要素を導入することが一番です。
    私は即興劇の方法を用いて、学習者に制御権を渡し、変化をもたらすことを学びました。次に何をするかを決めるために、サイコロを使うことさえあります。

    クエストとミッション

    私はクエスト(クリアすべき課題)の活用において、現代のマルチプレイヤーゲームに強く影響を受けています。特定のゲームのクエストが変わったり、役割が変更された場合、ゲームはリプレイ可能です。このモデルにより、再利用性の高いセッションを開発できます。役割はチームと協力するときに魅力的なものです。グループ内でのコミュニケーションの重要性を高めるために、個人に異なる方法で説明するのが好きです。

    参加のための準備

    準備のための演習や特定のソフトウェアツールによる慣らし、およびメインミッションの前の練習は、現在多くのセッションで実施しています。事前準備をしておくことで、メインの課題が開始されると、学習者の生産性が向上します。

    写真撮影の機会を作る

    セッションの終わりだけでなく、ピークに達したときは明確に伝えるようにしています。自分を褒めてあげて、お茶を飲んで一服し、次のピークに備えましょう。明確なクレッシェンドを作り、小さな成功を祝う方法を提供することは、セッションメリハリをつけるための優れた方法だと思います。

    隠されたアジェンダと道筋

    時に危険かもしれませんが、私はゴールポストを動かすのが大好きです。私は多くの学習体験をデザインしてきましたが、明確な概要、目標、刺激材料を準備していたにも関わらず、セッションの途中でそれらを破り捨て、途中で別の目的に変更したことがあります。これは、プライバシー、インクルージョン、フェイクニュース、またはグループ思考に関する、複雑な問題を探求する方法として特に有効です。

    リフレクション

    ハイパーアイランドでは、リフレクション(内省)がどんな学習の過程においても重要だと信じており、それは私も同じです。これは、体験したこと、感じたこと、提起した質問、学習者が自分の仕事や生活においてこれをどのように適用できるかを探求するために時間を費やすことを意味します。

    セッションの旅を価値のあるものにする

    自分が作っている体験のインパクトについて、よく考える必要があります。学習者がセッションのあとに(以前にはできなかった)何ができるようになってほしいのか?この結果を明確にし、最初に学習者と共有し、最後にこれを達成したことを証明できるような方法を設計します。

    素晴らしいファシリテーション

    ファシリテーションは、教えることよりも重要です。私は全てを知っているわけでも、すべての質問に答えられるわけではありませんが、どのように探せばいいのか、どのようにして受講生に自分で探してもらえばいいのかは知っています。ファシリテーションとは、部屋(またはZoomコール)にいる一人ひとりに時間を割き、注意を払うことです。部屋の中のエネルギーを察知し、管理することです。私は、次の例題に移るか、スピードを上げるか、スピードを落とすか、別のケースを注入するかを判断しなければなりません。

    手がかりとナッジ

    ファシリテーションの中心となるのは、慎重に配置されたナッジ(グループの注意を引く手がかりまたは質問)です。私は常にどのようなナッジが必要かを検討しています。 さらには、ナッジを(個人に対して)自動化するという試みも行っています。

    Y(ツール)でX(スキル)のロックを解除する

    ゲームデザインからのもう1つの有用なアイデアは、セッションの前半で学習者にツールまたは知識を提供し、後半にその有用性を明らかにすることです。

    社会的義務

    私は自分が作り出す学習の社会的側面をとても意識しています。繰り返しになりますが、即興劇から学ぶことはたくさんあります。学習者や他のファシリテーターと一緒に体験を作るときは、セッションにおける全員の気持ちについて真剣に考える必要があります。これは、私が親切で穏やかでなければならないということではなく、私が人に無理をさせたり、個人にもっと貢献してほしいと迫るとき、そのことがその人や他の人に与える影響を意識しているということです。

    専門家の紹介

    多くの人は、コースが専門家からの知恵が詰まっていることを期待していますし、時にはそうあるべきですが、今日の学習デザイナーは、一次資料、ビデオ、記事を使用して簡単に専門家の意見を取り入れることができます。私は最近、美術品の偽造、価値、AIを探求するセッションを作成しましたが、保険や出どころ、セキュリティや生成アルゴリズムまで、さまざまな専門的視点を学習者に提供する短い意見のビデオやレポートをたくさん見つけることができました。この学際的研究は、分野の垣根を越えた学習体験を生み出すという私の探求の中心となっています。

    繰り返し使えるミッション

    私がゲームから得た最後のアイデアは、新しい役割、新しい視点、または新しいツールで何度でも同じアイデアを使用できることです。たとえば、私は1つのセッションで1つののデータセットを使用していますが、時間、場所、関係性、システムなど、全く異なる方法でデータを視覚化しています。このような再利用性を活かして、私のセッションの一部をパッケージ化し、他の人にも利用してもらえるようにしています。

    これらは、私が現在および将来に渡って記憶に残る学習体験を作成するために織り込みたい、設計原則のいくつかです。
    これらの原則は、多くの学者が行っている学習方法とは異なりますが、それでも構いません。 学習者には多様性が必要であり、異なる学習者には異なるアプローチが適していると思います。
    私はこれらについて、みなさんのフィードバックやアイデアを聞きたいと思っています。

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    ※1 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(Dungeons & Dragons、略称:D&D)は、1974年に制作・販売されたアメリカのファンタジー・テーブルトークRPGである。世界で最初のロールプレイングゲーム (RPG)であり、他のRPGの原点ともなり、最も広くプレイされた作品(出典:Wikipedia)

    ※2 ゲームマスター(Game Master、GM)は、テーブルトークRPG(TRPG)等のゲームおける、ゲームの進行を取り仕切る人物のこと。(出典:Wikipedia)
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    ※この記事は、ジョナサン・ブリッグス氏による原文:Designing the theatre of memorable learning sessionsを、ご本人の許可を得て翻訳、編集したものです。

    ※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。

    ddpost編集部

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