北欧発ビジネススクールのファシリテーションに学ぶ、会議の生産性を上げるヒント
リモートワークが主流になりつつある今、ビジネスパーソン一人ひとりにより高い生産性が求められています。特にオンライン会議や共創ワークをより効率的に進めるためには、全員がファシリテーターの目線を持つことが大切です。この記事では、我々Hyper Island(ハイパーアイランド)のファシリテーターの役割やメソッドを解説した上で、共創ワークショップや会議の生産性を上げるヒントをお伝えします。
執筆者: 森 杏奈 / Hyper Island Japanラーニングデザイナー・ファシリテーター
2001年テイ・ディ・エス入社。グラフィックデザイナー、アートディレクターとして活動の後、NYにてデザイン思考を学ぶ。2018年よりHyper Islandのシンガポール校に留学。仕事と育児を両立しながらデジタルマネジメント修士を取得。Hyper Island Japanの立ち上げに携わり、現在は同校のラーニングデザインディレクターを務める。
ファシリテーターとは
私がファシリテーターを務めているHyper Island Japanは、北欧発のクリエイティブ・ビジネススクールです。2020年よりオンラインを中心に、日本向けに人材育成プログラムを展開しております。個人向けのオープンコースでは、初めて出会う様々な年代、職種、バックグラウンドの受講生に対して、テーマごとに1~2日にわたるワークショップの中でファシリテーションを行います。
ファシリテーター、ファシリテーションについては、様々な解釈や定義があり、日本では議事進行係の役割を担っていると理解されている方が多いという印象ですが、我々の定義は少し違います。単純に議事進行するわけではなく、その会議体やワークショップの目的とゴールを定めたうえで、内容と方法を設計し、参加者の能力や生産性を引き出す役割と考えています。外から参加者に対してファシリテーションを行うこともあれば、自分が中に入って先頭を切って走りながら参加者を巻き込んでいく場合もあります。
生産性の高い共創型の会議やワークショップは、予め決められたゴールは曖昧なものであることが多いと考えます。これは、従来私たちが当たり前だと思ってきた直線的な仕事の進め方が通用しなくなってきているという背景によるものです。多用な参加者(立場の違うメンバーやチーム、場合によってはクライアントやユーザー)を巻き込んだ議論や共創ワークを推進するため、参加者たちに問題を探求するよう促したり、合意するために意見をまとめるお手伝いをする立場です。あくまで、参加者自身で探求したりまとめるためにその能力を引き出すよう、どうすればいいかを考え、サポートする役割と捉えています。
Hyper Islandのファシリテーションメソッドに学ぶ、会議の生産性を上げるヒント
前述した通り、我々Hyper Islandのファシリテーターの役割は、参加者に答えを与えるのではなく、参加者自身で問題を探求したり、結論を見つけられるように導く立場です。ファシリテーターは、テーマにおける「望まれる成果」を得ていただくために、ワークショップの設計を行い、事前準備や実施中にも様々なことを行っています。ワークショップとビジネスにおける会議では性質が違うものの、共通する要素もありますので、私が普段行っているファシリテーションのメソッドの中から、会議にも応用できるものをご紹介したいと思います。
1.設計を綿密に行う
ファシリテーターの役割は、ワークショップそのものを設計するところから始まります。これは会議においても同じように、「何のためにやるのか」という目的と、「どのような成果が欲しいのか」というゴールを明確にしなければ、生産性の低い会議となってしまいます。設計が最重要といっても過言ではありません。
具体的には、まず目的とゴールを定めた上で、そこに向かうために、以下のことを設計する必要があります。
会議終了時の成果物とは何か(議事録?次ステップを明確にする?)
ゴールを達成するため、どのような内容が必要か(アジェンダ、順番はどのようにする?)
内容に対するアプローチはどうするか(何のツールを使う?問題が起きた場合の対処は?)
どのメンバーをアサインするか(メンバーの役割は?)
どのような環境で実施するのか(オンライン?対面?ハイブリッド?)
ルールやガイドラインはどのようなものか
タイムライン、個々の時間配分をどうするか
2.心理的安全性を確保する
活発な議論をするためには、誰もが安心して臆することなく発言できる空気づくりをすることが大切です。この、「自分の意見を言っても、どんな指摘をしても、拒絶されずに受け入れられる状態」のことを、『心理的安全性』と呼びます。我々Hyper Islandでは、ワークショップの始めに『チェックイン』を行い、テーマに関連する質問について参加者一人ひとりに発言をしていただきます。その機会を活用し、話を否定することなく受け入れ、それを参加者に示すことで、心理的安全性を確保するというやり方を行っています。
会議においても、チェックインもしくはオープニングと言われる、本題に入る前の導入の場を設けることをお勧めします。ここの場ではフラットな関係で「何を言っても大丈夫」と参加者に思ってもらえるようにすることが目的です。
特に決まったテーマではなくルーティンの中に組み込む場合には、チェックインジェネレーターという北欧のサイトを活用するのも良いかもしれません。
3.『発散』と『収束』を意識する
デザインシンキングの手法にも通じますが、会議やワークショップでは、活発にアイデアを出す『発散』と、そこからアイデアや論点を絞っていく『収束』の段階を意識することが大切です。
『発散』のフェーズでは、議論を収束させるようなことは言わず、どんな意見も受け入れるようにします。発散のフェーズでは、できるだけ多くの選択肢を作ったほうが、より良いゴールに辿り着きやすいためです。たとえば、誰かが出したアイデアに対して、他の誰かの「それはコストがかかりすぎるよ」という一言が入るとその議論は終わってしまいますよね。そうすると、そのあとに出すアイデアのハードルが上がってしまいます。逆に『収束』のフェーズでは、発散させることを言わないようにします。
このように全体的なリズムと流れというものがあるので、その流れを参加者全員が理解していると、会議がスムーズに進み、結果として生産性が高まります。最初に述べた、「全員がファシリテーターの目線を持つ」ということにも通じていくのです。
4.主役は参加者である
Hyper Islandのワークショップでも、チェックインと言われるオープニングのあと、本題に入ると、どこに行くかわからない、スパゲッティと言われるカオスの状態が待っています。参加者自身がたくさんの探求を行い、最後にはきちんと目的に向かってクロージングしていけるように、ファシリテーターがどれだけ事前に想定をしておくかということも大切になってきます。そして、あらかじめ設計した会議の進行を、その場の状況に応じて柔軟に変更する勇気が必要です。実際に私たちは、ワークショップを進める中で参加者のニーズや状況を捉えながら、都度内容や方法を変更し実施しています。
ビジネスにおける会議やワークショップでも、あくまで参加者が主体となって議論や結論に辿り着けるにはどうすれば良いかを第一に考え、そのためにファシリテーターができるサポートは何なのかを判断の基準にすると、より生産性の高い会議になると思います。
最後に
私たちが普段行っているファシリテーションメソッドの中から、会議の生産性を上げるために応用できるものをご紹介いたしました。実際に私のところにも、受講生から「ファシリテーションのノウハウを教えてほしい」という質問が増えてきており、ファシリテーションのノウハウ、メソッドがますます求められていることを実感しています。今回ご紹介した4つのうち、まずは1つでも取り入れていただき、皆さんの仕事の生産性向上に活かしていただければ幸いです。
Hyper Island Japanの詳細はこちら
https://www.tds-g.co.jp/hij/
企業向けコース
https://www.tds-g.co.jp/hij/business_program/
個人でも参加可能なアクションラーニングプログラム
https://www.tds-g.co.jp/hij/action_learning/
【シニア世代のリスキリングに】サードエイジ向け リパーパスプログラム
https://www.tds-g.co.jp/hij/3age/
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。
森 杏奈
ラーニングデザインディレクター/テイ・デイ・エス執行役員/Hyper Island Japan責任者
グラフィックデザイナー、アートディレクターとして活動後、NYとシンガポールでデザイン思考やデジタルマネジメントを学びHyper Islandのデジタルマネジメント修士取得。課題に応じて研修プログラムをオーダーメイドで設計・実行するラーニングディレクターとして、企業のDX促進や人材育成研修プログラムを多数手掛ける。