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【Hyper Island Japanファシリテーター紹介】千和栄さん(通訳・翻訳担当)

2021.06.14 更新

#Hyper Island#TDSレポート

2020年11月に日本上陸以来、陸続と受講生を輩出しているHyper Island Japan。今回は、Hyper Islandのファシリテーターにスポットを当て、ご紹介していきます。第1回目は、通訳・翻訳も担当している千和栄(せん かずひろ)さんに、Hyper Islandの魅力や、翻訳・ローカライズする際のポイントなどを語っていただきました。

目次

    千 和栄氏 プロフィール

    インターナショナルスクール出身。ボストン大学にてデザインを学び、帰国後、ゲーム会社等での通訳、翻訳、ローカライズ、自動車業界にてアナリスト 、海外営業&マーケティングなどに携わってきた。
    その後、フリーランスに。海外にてインターナショナルビジネスについての講演や、テレビ出演の経験も。2019年より、TDSに参画。通訳・翻訳業務の他、Hyper Islandを日本で展開するための折衝業務や海外営業も担当してきた。Hyper Island Japanでは、コースの翻訳やローカライズ、ファシリテーターも務める。

    通訳は、精度よりも「伝わること」

     

    –千さんが通訳をする際に気を付けていることはどんなことでしょうか?

     

    通訳って、要約力が一番試されていると思っています。要約っていうのはコンテキストとか文脈、背景とかだけではなく、エネルギーレベルの話にもなってくるんですよね。速度や間の取り方なども含めて、精度よりも、『どうしたらより伝わるか』。そのさじ加減が大事になってくるのかなと思います。

    実際に私が通訳として経験したことなんですが、TDS側が、「鍋を囲むような仲として、仲の良いパートナーシップを作りたいですよね」と言ったことがありました。それをそのまま訳しても伝わらないので、「感謝祭のディナーを一緒にとるような関係になりたい」と伝えたんです。鍋も、感謝祭も、Familyのことですから。翻訳、通訳の正確性でいったらゼロですが、意訳が大事だということはこういうことで、トランスレーションではなくてローカライゼーションだと思っています。

    ゲーム会社でクリエイティブの翻訳、通訳をやっていたので、イメージ力や連想力はそこで鍛えられたのかなと思っています。

     

    –Hyper Islandでは、提供するコースやツールボックスの翻訳、ローカライズなどもされているんですよね。創立者であるジョナサン氏の通訳もされていましたが、何か苦心された点はありましたか?

     

    デザイン思考やジョブ理論など専門的な話が多いので、情報量が多いときに、どうしたらオーディエンスに一番伝わるかっていうのは気を遣う部分でした。日本語で言ってもコンセプトや内容がわからないことって多々あると思うんです。それをどこまで補足したほうがいいのかというのは、実は通訳の垣根を超えてしまっていることなのですが、ファシリテーターとしてはやったほうがいいというジレンマはあります。そこは、事前にスピーカーたちと打合せをしたり、資料をもらったりして予習をしていました。たとえば、今は割と浸透していますが、アジャイルが流行る前のことを想像してみてください。「完成品を求めるのではなく、素早く試作型を作って試行錯誤のスピードを速めることなんですよ」というのと、「アジャイル」って一言いうのは、当然前者のほうが伝わりますよね。

     

    –実際に千さんもHyper Islandを受講されているそうですが、だからこそできている部分もあるのかもしれませんね。

     

    そうですね。さっき言った予習ではないですけど、実際に受けて、そのことを熟知して、作る側にいるからこそというのはあると思います。1回自分の体を通っているものですからね。

     

    通訳者から見たHyper Islandの魅力

     

    –実際にHyper Islandを受講されて、千さんが考えるHyper Islandの魅力はどんなところでしょうか。

     

    双方向型ということが一番の特徴であり魅力だと思っています。

    伝統的なレクチャーや座学が中心の、とりあえずアクティビティやワークを入れたようなものではなく、がっつり考えさせられるような。実験して、その実験から得た結果を振り返って、そこから得た学びはなんだったのかを考える、比較思想というのが入っているんです。

    また、Hyper Islandは、アートスクールの考え方と、ビジネススクールの考え方、テクノロジースクールの考え方、3つの思想が複合的に入っています。そして、やったことを振り返るっていう実験的なマインドセットは、ビジネスのリーン(無駄のないこと)の部分と、あとは美大とかでよくやるような品評会的なやり方なんですよね。作品を出して、それをみんなで見る、もしくは自分で見るんですけど、じゃあどこをどうしたらもっと描写がうまくできるか、より美しくみえるかっていうのはアートスクール的なやり方なのかなと思います。

     

    –Hyper Islandでの学びは、自身にどんなふうに活かされていると感じますか。

     

    そうですね。アジャイル的な考え方だったり、ユーザーセントリック(ユーザー中心)の考え方だったりとか。そこはやっぱり、自分の軸になっています。

    リフレクション(内省)というフレームワークがあるのですが、どうしたらよりよくできるだろうか、さらに進めていけるだろうかと内省することもすごく役立っています。他には、アクティブリスニングといって、傾聴すること。また、アウェアネスといって、感覚を鋭く、また範囲を広く色々なものにAware(アンテナを開いている状態=感度を高くもつこと)になっていることです。そして、個人的にすごく好きなのがオープンネスなんですけど、いいチームっていうのは、健全な殴り合いができる状態になるといいよねっていう。

     

    –それってすごく重要なことだと思いますが、できている人って意外といないですよね。お互いの主張を言い合っているだけで、落としどころを全く考えていなかったり。

     

    確かに、日本人だと少ないですね。Hyper Islandを受講した人は、それが自然とできていることが多いです。
     
    Edgar Daleという方が提唱した、コーンオブラーニング(cone of learning)という学習ピラミッドのモデルがあります。レクチャーを受けたことは2割くらいしか残らないのですが、実際に手を動かしたりすると7割から9割残ると科学的に証明されているんです。

    Hyper Islandでは「Lerning by doing」といって「手を動かすことで学ぶ」ということをやっているので、学べるというより「吸収できる」と言ったほうが正しいと思います。

     

    –いわゆる、本人が頭で理解しなくても体に染みつくというか。そういう感覚なのかもしれませんね。

     

    そうですね。ただ見て、脳で意識的に学習するのではなく、無意識的に得ていく。無意識的有能にアプローチしていける学習メソッドなんですね。ただこれは私の個人的な見解なのですが、Hyper Island はあくまでエッセンス、つまり種を渡しているので、それを持っているだけではなく、磨いていかなければなりません。

     

    日本向けにローカライズする上でのポイント

     

    –2020年11月から、日本でもHyper Islandのコースがオンラインで受講できるようになりました。日本向けに翻訳、ローカライズも千さんが担当されていますが、何か意識されたことはありますか?

     

    私の場合は日本の教育システムを受けたことがないのでわからなかったのですが、アウトプットをたくさんする教育というのは海外ではごく普通のことなんです。なので、そこにカルチュラルギャップがあるということにまず驚きました。ローカライズするときに、日本でその障壁を再現するわけですよね。ただ再現しているだけではダメで、あまりに居心地が良すぎても学びにならないし、逆にハードルが高すぎて、いわゆるパニックゾーン(思考停止)に入ってしまうと続かない。その中間、ストレッチゾーンと言われる、ちょっと背伸びしている感があり成長痛を感じる位置というのは、文化圏や、人の習熟度、マインド、精神の強さによって違います。ローカライズする際だけではなく、ファシリテートをするときも、そこは意識しています。

    今ファシリテーターは3人体制でやっているのですが、受講生の顔を見ながら、今言おうとか、ちょっと調整しようとか、内容をただ変換するのではなく、ライブでもやるようにしています。

     

    –やはり本国のものをそのまま持ってくると、日本人には少し強いのでしょうか。

     

    強い、弱いというよりは、合う、合わないだと思います。ご飯と一緒だと思うんですけど。
    同じ効果とか到達点には行くのだけれども、サービングの方法や料理の盛り付けを変えるイメージです。たとえばここのポーションは、ここの分量を少なくして、ここはあえて表現をうまくしようとか。

     

    –そういう意味では、日本人で英語ができる人は本国で受けることもできると思いますが、ローカライズされたもののほうが入ってきやすいのでしょうか?

     

    本国で受けられる人は受けちゃえばいいと思います。実際に、私がシンガポールで受講したときも数名日本人の方がいらっしゃいました。そして、逆に日本でも受けていただいて、違いを楽しんでもらえたらと思います。

    たとえば最近実施したデジタルマーケティングですと、事例を日本のものに変えたり、そのときに使っているユーザーのニーズやインサイトも日本風に改造したり、ペルソナも日本っぽくしています。対して、シンガポールでは華僑の話や、銀行系の事例が多く、ペルソナも少し想像しにくいかもしれません。そういう意味では、日本向けにローカライズされたもののほうが理解はしやすいと思います。

    また、この日本向けのコースは、Hyper Island Singaporeでマスター(修士号)をとっている森がいて、日本のいろいろな企業で実際にプログラムを走らせている萩原がいて、そして言語的な意味では私がいる。網羅できているので、本国と遜色のない、自信をもってお届けできるコースとなっています。

     

    –最後に、千さんの今後の夢や目標を教えてください。

     

    言語・文化的障壁のない世界が来たら良いなと思っています。テクノロジーか教育が変わって、様々な国や文化圏の人が交流できる世界がきたら嬉しいです。言葉の翻訳ではなく、意思や文化が伝わる、そんな夢のようなサービスやテクノロジーが出たらいいですね。

     

    千さんがファシリテーターを務めるアクションラーニングプログラムの詳細はこちらからご覧ください。
    個人でも参加可能なアクションラーニングプログラム
    https://www.tds-g.co.jp/hij/action_learning/

    ※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。

    ddpost編集部

    UXデザインやサービスデザイン、デジタルデザインなど、海外のデザイン情報、イベント情報を、分かりやすく紹介します。