INTERVIEW REPORT|ファシリテーションやワークショップをデザインカンパニーが活用する意義とは?
TDSは「デザイン」を生業とする企業ですが、近年「ワークショップ」を実施する機会が増えています。
それは、デザインをアウトプットするまでの工程の中での提供もあれば、「ワークショップの設計と実施」自体が最終成果物となることもあります。
自然発生的に機会が増えているようにも見える状況や理由について解像度をあげる必要を感じ、ワークショップやファシリテーションのノウハウを多用する3名のディレクターを集めてインタビューを実施しました。とても有意義な会になりましたのでレポートとしてみなさんにお届けしたいと思います。
Interviewees
高瀬 浩司(写真中):プロデューサー
- プランナーとして企業のコミュニケーション戦略立案、ブランディング支援、業務のUX最適化、コンテンツ開発等に従事。戦略・コミュニケーション・コンテンツを行き来しながら、幅広く体験開発を支援。人間中心設計専門家。趣味:ドライブ/子育て
# UXコンサルティング # ブランディング # 人間中心設計専門家
池田 圭一(写真右):プロデューサー
- ユーザー視点を基軸に、伴走型コンサルティングやプロジェクトリード実績を豊富に保有。近年は金融関連・人材育成関連のデジタルソリューションサービス設計・体験設計・改善等の支援を推進。 趣味:キャンプ/アイドル/映画鑑賞
# 新規事業支援コンサルティング # UXコンサルティング # 上級ウェブ解析士
下山 裕策(写真左):クリエイティブディレクター
- クリエイティブディレクターとしてブランディング支援を担当。クライアントへの共感とコミュニケーションを大切にし、ブランドのありたい姿をコト、モノ、ルールに落とし込むことを得意とする。 趣味:図画/工作/撮影/ガンプラ/釣り
# ブランディング # アートディレクション # 人間中心設計スペシャリスト
Interview
━最初に、「ワークショップ」と「ファシリテーション」という言葉の意味について認識合わせをさせてください。
<下山>
今2つを並べていますが、ファシリテーションは「お客さんとのコミュニケーション全体を設計すること」で、あくまでその手法の1つとしてワークショップがあると考えています。さらにそのワークショップの中に「狭義の進行という意味でのファシリテーション」も含まれている認識です。
<池田>
ファシリテーションの方が上位概念という認識は僕も同じです。必ず対になるものでもないと考えていて、目的達成のために何をした方がいいのかを計画して実行に導くことがファシリテーションだと思っているので、手法としてのワークショップというのは同じ意見です。
<高瀬>
ファシリテーションは、定例の打ち合わせなどで毎週のアジェンダの設計なども含まれるので2人と同じ認識です。
━ファシリテーションやワークショップを、多用するようになった「きっかけ」はありましたか?
<下山>
自分たちで直接クライアント対応をする場合、少なからず能動的な働きかけをしないと成立しないので、クライアントをリードをしたりイニシアチブを取ろうとすることがファシリテーションの始まりかなと思います。
あとは「クライアントの課題を解決する最善策を考えよう」という軸で、最適な手段としてワークショップを使うケースが増えたのかなと思います。
<池田>
TDSとして意識的に増やそうみたいな明確な分岐点はなかったですよね。かなり前からニーズの引き出しに有効そうだなという感触は持っていてベターな解決策として自発的に使っていました。改めて社内教育プログラムが浸透した際に「これをファシリテーション/ワークショップと呼ぶんだな」という定義付けがされたタイミングはありました。
<高瀬>
最近は、クライアント自身も「どう進めようか?」とか「そもそも社内のプロジェクトメンバーはどう思っているのか?」と考えている段階から一緒になって企画やデザインをするケースが増えているので、そういった思いを汲み取って「共創」を進めやすいスタイルとしてファシリテーションやワークショップをすることが定着してきたのだろうと思います。
━ クライアントをリードするファシリテーションは、営業スキルのようにも感じますが、ディレクターやデザイナーが活用する意義はどういうところですか?
<池田>
デザイナーによって得手不得手は確かにありますが、ファシリテーションもコミュニケーションの設計なので、元々形がないものの形を作る存在でもあり、潜在的に設計する力を持った人たちが多い職種だと感じています。
<高瀬>
クライアントの要求をきちんと引き出して、汲み取れるのが「良いデザイナー」だとして、これまで営業職が担っていたケースが多かっただけで、あまり役割などは難しく考えずにクライアントやエンドユーザーに想いを馳せて「良いデザインに必要な要件を引き出すための行為」だと捉えています。
<下山>
「良いデザイナー」の話が出たので追加すると、僕がアートディレクターとしてデザイナーを育てる際に、デザイナーに1つずつを解説をしてもらうんです。例えば「なぜここに1mmの線があるのか?」というように。
基本的にすべてロジカルに物事を考えた体現が商業デザインであって欲しくて、その為の要件を引き出す話なのだなと思いました。
<池田>
今の話みたいに、対クライアント以外でもアートディレクションの観点で「方向性やトンマナを検討する機会」にもファシリテーションやワークショップは使えます。
絵作りが得意な職人的なデザイナーの幅をもっと引き出すために使ってみるなど、利用シーンを幅広に捉えて活用するとかなり有効だと感じます。
━「得手不得手」「職人的なデザイナー」というキーワードが出ましたが、ワークショップ内での「役割分担」はあるんですか?
<高瀬>
例えばアイデアソンのように「事前に全体設計」がされた上で、ワークショップの途中にリアルタイムで絵作りをするタイミングを挟んで、そこにデザイナーを投入して活躍してもらうケースは結構あります。
<下山>
高瀬さんの言う「事前に全体設計」がとても大事で、基本的に全体の流れや誰がどう動くかは先に設計するので、ジャズの即興演奏みたいなものではないんですよね。
全体がオーケストラの進行のようにきちんと設計された上じゃないと良いファシリテーションやワークショップにならないだろうなと思います。
<高瀬>
その例えすごく秀逸で、デザインを即興のジャズのように捉えられていることは時々あります。でも多くの場合、アウトプットに辿り着くまでのインプットや段取りをきちんと設計しておかないと、最後に「音が出ません」となるリスクがあります。
ワークショップを通して綺麗な音を鳴らすには、エモーショナルに響かせる余白は残しつつ、基本は全体はオーケストラのように進行します。じゃないと怖くて絵作りの担当のデザイナーはワークショップに入れません(笑)
<下山>
それは入れないですね(笑)参加側やワークショップの工程で生まれるものって、そもそも即興が前提なので予定していないものが出てくるんですけど、その裏では、このパターンが来たらこういうしようというような進行上の設計や対策は事前に念入りに考え抜きます。ファシリテーションをする側に即興はないということですね。
━ワークショップへ参加する側のクライアントは、どんな立場で、どんな役割や目的を持った方が参加する方が多いですか?
<下山>
クライアントの課題感は本当にさまざまですが、目的としては社内の「合意形成」が多い印象はあります。社内のコンセンサスに課題があるので、関係者の皆さんの言質を取りながら進めることが多いです。
ちなみに目的によって発言力が強すぎる社長と遠慮が入る若手を混ぜないようにしたりと立場の配慮は結構大事です。
<池田>
そうですね。目的次第で、反対に適切なタイミングで決裁者やプロダクトオーナーに参加してもらう場合もあります。後から経緯を見ていない決裁者の鶴の一声でひっくり返るような展開は避けたいので、決裁者にもプレーヤーとして参加してもらったり、ジャッジの局面で大きなポイント持たせるなど考慮して初期設計をします。
<下山>
ブランディング領域のワークショップだと、これからの5〜10年先を担うキーマンを集めて、これからの未来像を語ってもらうことが多くありますが、こういうケースだと近しい立場の参加者同士が集まるので、忌憚のないフラットな意見交換をして議論が活性化しやすいんですよね。
<高瀬>
フラットなコミュニケーションに苦労する企業文化を持つ会社も結構あって、例え疑似的だとしても、ワークショップのような立場を超えた意見交換の場を企業の内部で企画・運営するのが難しい場合も結構あるんですよね。
そういう時は、我々を「第三者」として挟んで利用してもらうことにすごく意味があります。
<下山>
ありますね。社内の人が何かを言い出すと「なんで?」ってなりがちですけど、第三者のTDSが必要だと言ってますと説明するとスムーズに進むケースは結構あります。
そういう企業文化の場合は、コミュニケーションのテーブルを用意出来た時点で、既にかなりの価値が生まれているのでは?と思うこともあります。
<高瀬>
社内の人間が言いにくいことやタッチしにくい領域も、第三者だと踏み込みやすかったりするので、その点に課題意識を持っている担当者さんだと、ウェルカムな姿勢で上手にTDSを利用してもらえます。
━ワークショップのような「共創」の進め方と、ウォーターフォール型のような「キャッチボール形式」での進め方の使い分けはしていますか?
<下山>
曖昧な相談が増えていたりするので、対して僕らもメンタリングを通して柔軟に解決策を模索したり、ワークショップを通してモヤモヤ解消のお手伝いをします。なのでクライアント側に明確な方針があれば、ウォーターフォール型の方が良い場合は結構多い印象です。
<高瀬>
不確実性が少なかったりイメージがある程度見えるものは、そもそも共創にする必要がないですしね。複雑な経緯でそもそもの課題を見失っていたり、各自の考えがバラバラだったり、レイヤーや専門分野が異なるメンバーが集まる際に、それぞれの意見を引き出して「共通認識」を得るコミュニケーションを設計する。
ワークショップの良さって「コミュニケーション要素」が含まれることだと思います。単純な合意形成なら声の大きな人を置けば合意の形成はできてしまうけど、本当に反映すべき意見が漏れてしまうので、心理的安全性などに配慮されたフラットなコミュニケーションの場を提供をして、必要な声を拾い上げるための土台を作るイメージです。
<池田>
デザイン業務全体で見たらウォーターフォール型で簡潔することが多い気がしますけど、そういった業務でも、特にファシリテーションについては、概念的に知っておくと違いが出やすいと思います。
打ち合わせでクライアントが言葉に詰まったり、例え話が多くなってきたなという時にファシリテーションのノウハウを使って相手の考えや意見を引き出す。そういう意味でファシリテーションを知っていると役に立つと思います。
━合意形成、認識共有、言葉を引き出すなど「異なる立場間の橋渡し」での有効性を感じましたが、他にも使い方もありますか?
<池田>
目的によっては、異なる立場ではなくて同じ立場の方が良い場合もあって、自分達の業務でわかりやすく例をあげると、デザイナー同士が「デザイン」に対しての意見を交わすワークショップを設計することがあります。
同じデザインを深堀りする近しい立場だからこそ意見が衝突するケースもありますけど、ギャップや広い意見を得ることが目的ならば、合意や共通認識ではなく、衝突こそが会の成功を意味する場合もあります。
<下山>
衝突を狙って設計することはありますよね。だからこそ気をつけたいのは、心理的安全性や相手への敬意がとても大事になってきます。ファシリテーションやワークショップをする際に、最初に「この場では立場はフラット」「必ず人の意見に対してポジティブに捉える」といった約束事を、IDOARRTという形で口を酸っぱくして言います。
IDOARRT式会議デザイン
IDOARRT式会議デザインは、会議やワークショップの最初に明確な目的・構造・目標を設定し、参加者と共有するフレームワークです。全参加者が会議やワークショップの全側面を理解することを目的としており、参加者の心理的安全性を確保するために役立ちます。IDOARRTは、Intention(意図)、Desired Outcome(望まれる結果)、Agenda(アジェンダ・議題)、Roles(役割)、 Rules(ルール)、Time(時間)の略です。
━最後に、ファシリテーションやワークショップを実施する際に、意識している心構えはありますか?
<下山>
大前提として主役は参加者、あくまで僕らはサポートだということは大事にしています。ファシリテーションしてリードをしていると主役に見えがちですが、例えばブランディングのワークショップであれば、最後に参加者の皆さんが「自分たちで成果物を作り上げたな」と思ってもらえるよう主役を際立たせる役割だと意識します。
<池田>
事前のリハーサルを大切にしています。 特に全体の時間軸とテーマに対して十分に議論が活性するような問いかけができているかなど、リハーサルを通して得た気付きから微調整をかけることも多いですね。
あとは本番では活発な議論を聞いていると、ついつい自分も参加したくなってしまうので我慢する事ですかね(笑)
<高瀬>
ペルソナやカスタマージャーニーマップを引くためのワークショップなどもやっていて、当然、成果物に焦点があたるんですが、一方で、立場や考え方が違う人達がワークに取り組む中で、みんなの温度を同じように高まって、見てるものが揃って、境界線を獲得していくようなことが生まれていて、このこと自体にすごく価値があるんですよね。
提供する側として成果物だけでなくその過程に価値を感じてもらいたいですね。
━ ありがとうございました!
ワークショップデザイン|テイ・デイ・エス
テイ・デイ・エスでは、UX/UI、ブランディング、WEBサイト、グラフィック等のデザインを中心に、その前工程で必要な組織内の認識共有や合意形成などの課題感に合わせたワークショップの設計・運用なども行っています。相談・壁打ちなど気軽にお問い合わせください。テイ・デイ・エスのサービス概要資料>
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