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シナリオ・プランニングとは?VUCA・BANI時代の戦略的思考

2024.06.05 更新

#Hyper Island#フューチャーシナリオ

シナリオ・プランニングは、加速度的にビジネス環境が変化する現代において、企業が有効な戦略を構築するための手段です。

不確実な環境変化要因に溢れる現代では、単一の可能性に注目して戦略を立てるのは現実的ではありません。シナリオ・プランニングを用いることで、様々な可能性に対応できる戦略を構築する必要があります。

この記事では、シナリオ・プランニングについての概要や求められている背景、成功事例、プロセスについて解説いたします。自社においてどのようにシナリオ・プランニングを行うべきかの参考になれば幸いです。

目次

    シナリオ・プランニングとは

    シナリオ・プランニングとは、中長期的に想定され得る未来予想図を複数描き、それらに合わせた企業戦略を立てる手法です。

    シナリオ・プランニングでは単一の未来を正確に予測することを目指すのでなく、様々な可能性を考慮した複数のシナリオを作成します。これらのシナリオをもとに戦略を立案することで、不確実な可能性に満ちた将来に対応できるようにするのです。
    シナリオ・プランニングでは、設定した期間において複数の状態が考えられる項目を「不確実性が高い」と言います。反対に単一の状態しか考えにくい項目を「不確実性が低い」と言います。
    ビジネス環境は、数多くの「不確実な可能性」に囲まれています。その可能性の中からビジネスに影響しそうなものを抽出し、それらを考慮して複数の未来シナリオを作成します。最後に、各シナリオに対応した戦略を用意する手法がシナリオ・プランニングです。

    【シナリオ・プランニングのイメージ】

    シナリオ・プランニングが求められる背景

    シナリオ・プランニングが注目されている背景には、世界を取り巻く環境の激しい変化があります。急激な発達を遂げるAI・IoT技術、緊迫する国際情勢、パンデミックのリスクなど、企業が考慮すべき環境の変化は少なくありません。

    このように単一的な予測が困難なほど、不確実性の高い現代を指してVUCAやBANIの時代と呼びます。

    VUCA
    BANI
    V(Volatility) 変動性

    U(Uncertainty) 不確実性

    C(Complexity) 複雑性

    A(Ambiguity) 曖昧性
    B(Brittle) 脆弱性

    A(Anxious) 不安

    N(Non-Linear) 非線形性

    I(Incomprehensible) 不可解さ

     

    企業が中長期の戦略を立てたとしても、重要なファクターをひとつ見落とすだけですぐに見直しが必要になることも多いのです。こうした中で、中長期的な戦略の立案が難しくなり、戦略の発表を控える企業も少なくありません。

    企業は単一の未来予想図を描くのでなく、さまざまな可能性を考慮して実現性の高い戦略を複数用意しておく必要があります。先行きが不透明で将来を見通せないVUCA・BANI時代では、そうした柔軟性や対応力が求められるのです。

    【関連記事】BANIとは?VUCAに代わる新しい世界を表す言葉

    シナリオ・プランニングのメリット

    シナリオ・プランニングが、現代のような不確実性の高い時代に有効な手法であることをみてきました。それでは、シナリオ・プランニングには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

    • 未来の不確実性に対する準備
      シナリオ・プランニングを実践することによって、不確実性に満ちた未来に対応し準備しておくことができます。
      前述したように変化の激しい現代では、たったひとつの未来予想図に可能性を限定するのは困難です。たとえば生成AIは今後どのくらい、どの程度のスピードで我々の生活に入り込んでくるか、誰も正確に予想できないでしょう。
      地政学的な情勢は刻一刻と移り変わっており、様々なリスクを考慮しなくてはならない状況です。新たな感染症によるパンデミックや大きな被害をもたらす大災害が、今後いつ起こるかも分かりません。
      このような状況では、シナリオ・プランニングを実践することで、様々なリスクに対して柔軟に対応し一定の耐性を確保しておくことができます。

       

    • 戦略的思考の促進
      短期的な利益を目指すのではなく、長期的な視点で複数の可能性を考慮することにより、戦略的思考を促進できます。考え得る将来的な可能性やリスクをひとつずつ丁寧に考慮することで、VUCA・BANI時代に対応可能な洞察力を高め、戦略的思考が養われるのです。様々な可能性を検討するなかで、創造的なアイデアやこれまでにないビジネスチャンスが見出されることも少なくないでしょう。

       

    • 意思決定の質の向上
      シナリオ・プランニングのプロセスでは、別部門やステークホルダーが協力し合い、認識を共有することが必要となります。このプロセスを経ることによって、組織内のコミュニケーションが強化されていきます。
      またシナリオ・プランニングを成功させるためには、ビジョンや目標の共有が欠かせません。全社的にビジョン・目標を共有し、互いに協力し合うことが求められます。その結果、組織が一体となり目標に取り組むための基盤が築かれるのです。
      こうして経営から現場に至るまでシナリオに関する議論を深めることにより、組織としての意思決定能力も向上します。

    シナリオ・プランニングの成功事例

    シナリオ・プランニングの成功事例としてよく挙げられるのが、国際的な石油会社「ロイヤルダッチシェル」の事例です。

    シェル社は1970年初期にシナリオ・プランニングによって、第1次オイルショックを予見し、迅速かつ的確に対策を行いました。その結果、シェルは市場シェアを拡大させ、世界的な石油メジャーとして成長します。この成功例により、シナリオ・プランニングの有用性が実証され、同業他社に大きな影響を与えたのです。具体的には 、シェルは以下のようなシナリオを事前に作成し、それぞれのシナリオに応じた対策を準備しました。

    <高成長シナリオ>
    石油の需要が大幅に増加し、価格が上昇するシナリオ
     
    <低成長シナリオ>
    世界経済の成長が鈍化し、石油の需要が減少するシナリオ
     
    <供給ショックシナリオ>
    アラブ諸国の政治状況が不安定化するなどして、OPECカルテルによって石油価格が大幅に値上げされるシナリオ

    結果的には、3つ目の「供給ショックシナリオ」が的中することになります。シェルの精製部門はこのシナリオの対策として、以下のような予測・準備をしていました。

    • 石油価格が高騰した場合、西欧の産業は停滞する。さらに電力会社は、火力発電所の燃料を重油から石炭へ切り替えると想定される

    • その結果、重油が余ることになる

    • 重油をガソリンへ転換することが可能な設備へ、投資する準備をしておく

    シェルの各製油所はシナリオにもとづいた設備増強・投資の検討をします。そうして、シナリオ通りOPECが大幅に石油価格を上げたら、速やかに戦略を発動するよう部門内で合意をしたのです。

    結果的にこのシナリオ通りとなり、シェルは同業他社に大きな差をつける成長を遂げました。

    余談ですが、シェル社内でもオイルショックの対策において、失敗がなかったわけではありません。シェルの船舶部門は石油ショックのビジネスへの影響は一時的なものにとどまると考え、予定を変えずタンカーを大量発注してしまいます。その結果、船舶部門は、長期的に船腹過剰や不採算に悩まされることになったのです。

    この失敗例からも、シナリオ・プランニングの重要性がわかります。

    シナリオ・プランニングのプロセス

    シナリオ・プランニングは、適切なプロセスで行うことによって成果を上げられます。以下、シナリオ・プランニングを進める際の基本的なプロセスをみていきましょう。

    • トレンドの理解・外部の環境変化要因の洗い出し
      世界的なトレンドや業界のトレンドなどを広い範囲で抽出し、中長期的に起こり得る変化の可能性をリストアップします。次にそのなかから、自社ビジネスに影響があると予想される環境変化要因を洗い出すのです。
      正確な環境変化要因を洗い出せなくては、的確なシナリオを作成できません。そこで、PESTLE分析・PEST分析・5フォース分析などのフレームワークを利用します。

       

    • 自社に与える影響度の大きい重要ファクターや分岐点を特定する
      洗い出した環境変化要因について、自社に与える影響度の大きさや不確実性などで評価を行います。その上で以下4種類に分類し、重要ファクターや分岐点としてシナリオへどのように組み込むかを検討するのです。

      1. 影響度は大きいが、不確実性が高いと考えられるもの
      2. 影響度は小さく、不確実性が高いと考えられるもの
      3. 影響度が大きく、不確実性が低いと考えられるもの
      4. 影響度は小さく、不確実性が高いと考えられるもの

       

      このうち最も優先されるべきなのは「1.影響度は大きいが、不確実性が高いと考えられるもの」です。1は自社ビジネスへの影響が大きいと考えられるものの、不確実性が高いことから他社が注目していないと考えられます。1の要因に基づく戦略を成功させることで、他社に大きな差をつけられる可能性があるのです。

       

    • 未来シナリオのストーリーをまとめる
      特定した重要ファクターや分岐点をもとに、それぞれどのような未来に至ると考えられるかストーリー形式でシナリオをまとめます。ストーリーを作成する際は、重要ファクターを十分に意識しストーリーを具体化することが必要です。

       

    • シナリオを分析し、将来的に生じ得る社会的な課題を抽出する
      作成したシナリオをもとに、将来どのような社会的課題が生じ得るかを抽出するステップです。このステップでは、できる限り具体的にどういったシーンでどんな課題が生まれるかを抽出する必要があります。

       

    • 理想とする社会像を描き、その実現のための自社戦略を構築する
      抽出した社会的課題に基づき、自社の存在意義も考慮しつつどんな社会にしていきたいかを考えます。そうして、その理想像を実現するために自社で何をすべきか、できるかを検討し戦略として落とし込むのです。

       

    シナリオ・プランニングを行う際のマインドセット

    シナリオ・プランニングを成功させるためには、マインドセットも重要な要素です。誤ったマインドセットで取り組みを開始した場合、シナリオ・プランニングで成果を上げるのは難しいでしょう。以下、シナリオ・プランニングを実践する際に必要なマインドセットを解説します。

    • オープンマインドであること
      シナリオ・プランニングは、将来の可能性を追求するものです。オープンマインドで多様な視点を受け入れることが重要です。

       

    • 不確実性を受け入れる
      未来は本来的に不確実なものです。シナリオ・プランニングをする際は、作成したシナリオが必ずしも正確とは言えないという事実を受け入れる必要があります。

       

    • 創造的に考える
      シナリオ・プランニングに取り組む際は、既成概念に捉われてはいけません。型にはまらないアイデアや解決策を自由かつ柔軟に考えるべきです。

       

    • 不条理を受け入れる
      シナリオ・プランニングに取り組む際は、現在可能であること、現実的に起こり得るだろうことだけに捉われてはいけません。不条理や突飛に思えるテーマを検討することで、革新的なアイデアが生まれる可能性があります。批判を恐れることなく、オープンマインドで想像力を膨らませながら検討を重ねることが求められます。

       

    • 影響に焦点を当てる
      シナリオ・プランニングに取り組む際は、何が起こるかを考えるだけではいけません。それによって個人・組織・社会に、どのような影響を及ぼすかを検討することが重要です。

       

    • 複数の視点から考える
      将来的に私たちが直面するストーリーは、複雑で多面的であると想定されます。そのため、シナリオを作成する際は、あらゆる視点で検討することが必要です。シナリオ・プランニングを行う際はシナリオを深化させるため、異なる視点も受け入れ多角的に検討することが求められます。

       

    • 現実をしっかり見据える
      シナリオ・プランニングでは想像力や創造性が求められますが、現実をしっかり見据えることも必要です。現在明らかになっている変化の兆しや、未来を形成するより広範な社会的・経済的・技術的なトレンドを考慮することが求められます。

       

    まとめ

    シナリオ・プランニングとは様々な環境変化要因を考慮した上で、複数の未来シナリオを想定し各シナリオに対応した戦略を準備する手法です。

    変化が激しく不確実性の高い現代では、単一の未来予想図に従い戦略をたてるのは現実的ではありません。様々な可能性に対応するためにも、柔軟な戦略設計を可能とするシナリオ・プランニングが注目されているのです。シナリオ・プランニングを実践することで戦略的思考を養ったり、組織における意思決定の品質を高めたりすることもできます。

    時代において他社に差をつけ市場でイニシアティブを獲得し続けるためにも、シナリオ・プランニングは有効な手法と言えるのです。

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    https://www.tds-g.biz/hij/action_learning/future_scenarios.html

    ※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。

    ddpost編集部

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