セルフリーダーシップとは?セルフマネージメントとの違いや習得方法を解説
最新技術の急速な発展などビジネス環境が激しく変化し続ける昨今、自己主導で課題を解決するための「セルフリーダーシップ」スキルが注目を集めています
この記事では、セルフリーダーシップの基本概念からセルフマネージメントとの違い、なぜ今セルフリーダーシップが重要なのか、そしてそのスキルを身に着ける方法について詳しく解説していきます。
セルフリーダーシップとは、目標達成に向けて自分自身をけん引するリーダーシップです。
一般的なリーダーシップがチームメンバーや部下など他者に対して発揮されるのに対し、セルフリーダーシップは自己に対して発揮されます。
セルフリーダーシップを習得した従業員は、組織の課題を自分事として捉え、自ら進むべき方向を理解し主体的に判断し行動する能力を持ちます。これにより、会社への貢献だけでなく、個人の成長にもつながります。
この概念は、1980年代に心理学者のチャールズ・C・マンツ(Charles C. Manz)によって提唱されました。
マンツは、セルフリーダーシップが他者を率いるリーダーシップより重要であることを示すため、スーパーリーダーシップとも呼んでいます。
彼によると、セルフリーダーシップの定義は
「自分自身を導き、自らに影響を与える包括的な視点から考えること(”a comprehensive self-influence perspective that concerns leading oneself”)」
です。
従業員が組織で成功を収めるためには、自己誘導や自己動機付けが重要です。
マンツの研究は、リーダーシップの概念を個人レベルまで拡大し、個人が自身の能力やポテンシャルを最大限に発揮する方法を探求しています。マンツの提唱するセルフリーダーシップは、自己認識・自己目標設定・自己報酬・自己反省などの自己管理戦略に基づいています。これにより個人が自分自身の内面からモチベーションを見出し、自己実現に向け積極的に行動することを推奨しています。
セルフリーダーシップの概念はその後も多くの研究者によって発展し、組織行動学・心理学・教育学など様々な分野で応用されています。
セルフリーダーシップとよく混同されるスキルにセルフマネージメントがあります。
どちらも「セルフ」という言葉が含まれているため、自分自身に対して発揮される能力である点は共通していますが、両者の意味する内容には明確な違いがあります。
セルフリーダーシップは、前述のチャールズ・C・マンツがセルフマネージメント論を拡張して提唱したものです。両者は取り組む姿勢に違いがあり、セルフリーダーシップを実現するためにはセルフマネージメントが基盤となります。
以下で、これらの違いについて詳しくみていきましょう。
◯取り組む姿勢に違いがある
セルフリーダーシップとセルフマネージメントは、取り組む姿勢に違いが存在します。
まず、セルフマネージメントは文字通り、目標達成に向け文字通り自分自身の心身を管理(=マネージメント)することを意味します。この考え方は経済学者ピーター・F・ドラッカーによって提唱されました。ドラッカーは、次のように述べています。
「自分をマネージメントできないものは、他者をマネージメントすることもできない」
一般的にマネージメントといえば、部下や組織など他者に働きかける行動を想起させますが、ドラッカーは、マネージメントの出発点を自己理解に設定しました。
一方、セルフリーダーシップでは組織の目標を自分自身の成長や自己実現の機会と捉え、主体的に取り組む姿勢を持ちます。セルフリーダーシップにおいては、組織の目標達成が、自分の理想にどのようにつながるかを考えることが重要です。
◯セルフマネージメントはセルフリーダーシップの重要な構成要素
セルフマネージメントは、セルフリーダーシップを実現する上で不可欠な要素の一つです。
セルフリーダーシップを効果的に行うには、セルフマネージメントのほか、創造的問題解決能力や他者に影響を与えるコミュニケーション能力が必要です。セルフリーダーシップを成功させるためには、まず自分自身を律するセルフマネージメントが基本となります。この能力が、自己の行動を適切にコントロールし、自己実現につなげるための土台を築きます。
セルフリーダーシップが求められる理由
セルフリーダーシップの基本的な概念を見てきましたが、なぜ現代においてこのスキルが特に重要視されるのでしょうか。ここでは、その主な理由を探ります。
VUCA・BANI時代の目まぐるしい変化に対応するため
AI・IoT技術の急激な発展、国際情勢の絶え間ない変動など、ビジネスを取り巻く環境は急激に変化しています。このような予測困難で変化が激しい現代を指して、VUCAおよびBANIと表現されます。
この変化に対応するには、上司や組織の指示を待つのではなく、自分自身で判断し主体的に行動する能力、つまりセルフリーダーシップが必要です。自ら情報を取り入れ、適切に対応することが、現代の職場で求められる重要なスキルとなっています。
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価値観やキャリアが多様化しているから
昨今では、人生や仕事における価値観やキャリアの多様化が進んでいます。年功序列や終身雇用が当たり前に存在した以前と違い、企業が従業員のキャリアパスを全面的にサポートすることが難しくなっています。従業員が自己の理想像に近づくためには、組織だけ頼るのではなく、自分自身の手でキャリアを形成する必要があります。
これには、他者からの指示を待つのでなく、自らを成長させるセルフリーダーシップが求められます。
さらに、ワークスタイルの多様化が進む中で、リモートワークやフレックスタイム制の導入により、個々の自己管理能力がより重要になっています。企業の目標達成や個人の成長を同時に実現するために、セルフリーダーシップを通じて自己を適切に律することがますます重要になっていると言えるでしょう。
他者をけん引するリーダーシップだけでは十分でないから
組織の目標を達成し成功に導くためには、他者をけん引するリーダーシップだけでは十分ではないことがあります。
実際、優れたリーダーシップがあっても他者を動かすことは困難であり、そのための決定的な方法はまだ見つかっていないのです。
一方で、セルフリーダーシップにより自分自身を変革することは、他者を変えようとするよりはるかにシンプルで実現可能です。
個人が変わることで、それが周囲の変化を促すきっかけにもなります。このため、セルフリーダーシップに対する注目が集まっているのです。
セルフリーダーシップを身に着けるメリット
セルフリーダーシップを身に着けることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下、主なメリットをみていきましょう。
効率性と生産性が向上する
セルフリーダーシップを習得することで、仕事の効率性や生産性が向上します。自分自身で目標を設定し、その達成に向けてどのように行動するかを考え、優先順位をつけて実行できるようになるためです。
セルフリーダーシップを駆使して成果を出すことができれば、その効果は周囲にも波及し、チーム全体の生産性向上が期待できます。目標設定が仕事のパフォーマンスに影響することは、目標設定理論(Goal-Setting Theory)でも明らかにされています。
この理論は、1960年に心理学者エドウィン・ロックとゲイリー・レイサムによって提唱されました。彼らは、適切に設定された目標がモチベーションを高め、パフォーマンス向上に寄与すると説明しています。
具体的には、以下の点が強調されています。
- ●課題を達成するためには、目標の設定が不可欠である
- ●自発的な目標や挑戦的な目標によって、パフォーマンスが向上する
- ●目標を受け入れることで、モチベーションが有効に機能する
この理論を基に、自己管理能力を高めることは、個人の成果だけでなく、組織全体の成果にも寄与することが期待されます。
モチベーションが向上する
セルフリーダーシップが身につくと、組織の課題を自分自身の課題と捉え、主体的に取り組むことができるようになります。この結果、内発的モチベーションが向上し、困難な状況でも大きな成果を出す力が育まれます。セルフリーダーシップとモチベーションの関係性は、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンによる自己決定理論を参考に考えることができます。
自己決定理論とは、個人の自己決定の度合いが内発的モチベーションや成果にどのように影響するかを明らかにした理論です。
この理論によれば、以下の三つの基本的な欲求が満たされると、モチベーションとパフォーマンスが向上します。
- ●自律性に対する欲求:自分の行動が自発的であると感じること
- ●有能性に対する欲求:自分の行動が効果的であり、困難な挑戦を乗り越えていると感じること
- ●関係性に対する欲求:自分が他人から尊重され、関心を持たれていると感じること
セルフリーダーシップを高めることで、これらの欲求が満たされ、自律性と有能性が強化されます。
また、セルフリーダーシップが高い個人は、職場においても倫理的で尊重される行動を取るため、良好な人間関係を築くことができ、結果的に関係性の欲求も満たされることになります。これら全てが、高い内発的モチベーションを引き出し、より良い成果へとつながるのです。
自分に自信が持てるようになる
セルフリーダーシップを高めると、他者に頼ることなく自分で問題解決の道筋を描けるようになります。これにより、自己効力感(目標に向かって自分をどう認知するか)が向上し、自分自身の能力に対する自信が深まるのです。自己効力感とは、自分が目標達成や課題解決に必要な能力を持っていると感じることを指します。この概念は心理学者アルバート・バンデューラによって提唱されました。彼は社会的認知理論の中で、自己効力感がどのようにして個人の行動や決断に影響を与えるかを詳しく解説しています。バンデューラによれば、自己効力感が高まることで、個人は課題を乗り越える自信を得ることができるとされています。
さらに、セルフリーダーシップと自信の関係は、マーティン・セリグマン博士やミハイ・チクセントミハイ博士によるポジティブ心理学からも裏付けられています。
ポジティブ心理学は、個人の強みやポジティブな感情を追及することが幸福感や自信の向上につながると説明しています。セルフリーダーシップを通じて個人の強みが明確に認識され、効果的に活用されることで、自信が増すというわけです。
セルフリーダーシップは、基本的な手順を繰り返すことで身に着けることが可能です。ここでは、その具体的な手順を紹介します。
理想の自己像を描く
まず、自分がどうなりたいか、理想の自分を明確にイメージしましょう。何を目標とし、何を達成したいのか具体的なビジョンを設定します。
理想と現状のギャップを分析する
次に、理想の自分と現在の自分の間にあるギャップを客観的に分析します。理想と現実の差をノートに書き出して整理し、ギャップを埋めるために何が必要かを考えましょう。ギャップを埋めるための行動を計画する
ギャップ分析から導き出された改善策を元に、実際に行動に移します。セルフリーダーシップでは、この改善策を積極的に実行することが非常に重要です。成果の振り返りと評価
行動の成果を振り返り、良かった点、改善が必要な点を評価します。このフィードバックを基に、再び現状と理想のギャップを分析し、次のアクションプランを立てます。これらのステップを繰り返すことで、セルフリーダーシップのスキルを徐々に高め、自己の成長を促進することができます。
ここでは、従業員のセルフリーダーシップ向上のために企業がどのように支援できるかを見ていきましょう。
セルフリーダーシップの重要性を周知する
従業員にセルフリーダーシップの価値を理解してもらうためには、まずはその必要性を明確に伝えることが重要です。セルフリーダーシップが何であるか、なぜ重要なのかを従業員に伝えることで、学びたいという動機づけを促します。
自己認識の機会を提供する
セルフリーダーシップの第一歩は、自己の理想像を明確にすることですが、従業員自身がこれを一人で行うのは難しい場合もあります。上司やメンターが対話を通じて洞察を提供し、以下のような質問で自己認識の機会を創出します。
- ●なぜ、この仕事を選択したか
- ●現在の状況に満足しているか、していないなら原因は何か
- ●現在の職場で役に立っていると感じていることはあるか、あるとすれば何か
- ●現在の職場で、自分がどのような役割を果たしていると感じているか
セルフリーダーシップ研修を提供する
従業員がセルフリーダーシップのスキルを効果的に学べるように、研修プログラムを提供することも有効です。これには、セルフリーダーシップの理論を学ぶ座学や、実践的なワークショップを含めると良いでしょう。こうした研修を通じて、従業員はセルフリーダーシップを具体的に学び、日常の業務に活かす方法を身に着けることができます。
セルフリーダーシップの習得は容易ではなく、時には外部の専門家の支援を求めることも一つの手段です。企業が積極的に支援することで、従業員一人ひとりのポテンシャルを引き出し、組織全体の成長に貢献することが可能になります。
セルフリーダーシップを高めるためのワーク
ここではHI TOOL BOX(ハイパーアイランド ツールボックス)の中から、セルフリーダーシップを高めるのに役立つワークを3つご紹介します。
HI TOOL BOXは、ハイパーアイランドの方法論によるメソッドやアクティビィティを集約したものです。
SWOB分析
SWOB分析とは、SWOBモデルを使って簡単なアクションプランを作成するノウハウを習得するためのワークショップです。
<SWOBモデル>
- ●S(Strengths:強さ)
- ●W(Weaknesses:弱さ)
- ●O(Opportunities:機会)
- ●B(Barriers:障壁)
SWOB分析ではまずSWOBモデルによって自分自身を評価し、成長するのに重要な分野を考えアクションプランを作成します。参加者はこの作業をグループに分かれて行い、より明確で達成可能なプランになるよう互いにコーチングします。
習慣のリフレクション
習慣のリフレクションとは、任意の行動や学習、作業などを習慣づけるための簡単なツールです。このツールでは、過去に習慣化した行動などを振り返り、新しい習慣を定着させるためのヒントを提供します。本ツールは個人の経歴や経験に合わせて、柔軟にカスタマイズ可能です。
習慣のリフレクション|HYPER ISLAND TOOLBOX
個人リフレクション
セルフリーダーシップを身に着けるためには、振り返り(内省)が欠かせません。個人リフレクションとは、複雑な経験を分解・理解することにより、成功体験を得たり改善したりすることにつなげるためのツールです。本ツールを実践することで、失敗を成長のための学びに変えることができるようになります。
個人リフレクション|HYPER ISLAND TOOLBOX
まとめ
セルフリーダーシップとは、組織の目標を自分事と捉え目標達成に向け自分自身をけん引するリーダーシップです。
ビジネス環境が激しく変化し続け、価値観やキャリアが多様化した現在は、上司や会社の指示を待つだけでは時代に取り残されてしまいます。
自ら目標達成に必要なことは何かを主体的に検討し、行動に移せるセルフリーダーシップが求められているのです。
従業員がセルフリーダーシップを身に着けることで、効率性・生産性が向上するとともに仕事に対するモチベーションも高まります。
組織の成長に行き詰まりを感じている場合、従業員にセルフリーダーシップをいかに習得させるかが、現状を打開する大きな鍵となるでしょう。
※この記事はTDSブログへ統合する以前のddpostの記事です。