心から目指したいと思えるビジョンをワークショップでつくる
#ブランディング
株式会社コーポレイトディレクション さま
株式会社コーポレイトディレクション様(以下、CDI様)では新たな人事制度・人事戦略を構築するにあたり、未来の会社の姿(ビジョン)を想像し、それを起点として現在のあるべき制度と戦略を考える発想で取り組むことになりました。
そこでTDSに、ビジョンを想像する議論の設計・運営(ファシリテーション)が依頼されました。
対応内容 | コーポレートブランディング |
---|---|
期間 | プロジェクト実施期間:約1週間 |
ご依頼の背景
新人事制度・戦略を構築するチームの発足
TDSへのご相談の少し前、CDI様では新たな人事制度と人事戦略を構築するために、役員を含む5人のチームが組織されました。
そのため冒頭でも触れた通り、未来の会社の姿(ビジョン)を想像し、それを起点として現在のあるべき制度・戦略を構築しようということになったそうです。その未来としては、おおむね10年後が想定されました。
さてCDI様では、何かプロジェクトがあるたびに、社員同士の合宿が比較的頻繁に行われているそうです。そこで今回も、チームの5人で合宿して集中してビジョンを作ろうという話になりました。
その際第三者を交えて、普段とは違う視点も議論に盛り込もうということも決まりました。
ビジョンを作るには、さまざまな意見を凝縮・結晶化していくことが求められます。CDI様のチームで、社外の第三者で「結晶化が得意な人は誰かいないか?」と考えた時、弊社のクリエイティブ・ディレクターである下山が思い浮かんだそうです。ちなみに、もともとCDI様とTDSは2年近いお付き合いがあります。
※CDI×TDSの取り組み:新規事業開発コンサルティングサービス「BirthDays」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000045605.html
場所と時間の制約
TDSにご相談が来た時点ですでに、次の場所が合宿会場としてほぼ決まっていました。
神奈川県葉山町、真名瀬海岸近くにある、築100年の漁師の家を改装した古民家宿泊施設です。
また今回は、いろいろな意味で時間がなかったことも大きな特徴です。ご相談からワークショップ開催までの時系列を以下にまとめてみます。
2月27日(金):CDI様からTDSへご相談
3月1日(火):CDI様によるオリエンテーション
3月5日(土)午後~6(日):合宿(ワークショップ)開催
まず、最初のご相談からワークショップ開催までの期間が1週間と短時日です。さらに、ワークショップにあてられる期間は1泊2日、事実上約一日です。古民家は昼間はワークショップ会場になり、夜は宿舎になります。
本事例では、このような場所と時間の制約を踏まえた、ワークショップの設計・運営が必要になりました。
解決策
「価値規定」の適用
CDI様のお話を伺って、「価値規定」という方法を用いるのが適切だと感じました。
この方法は、私たちがコンセプト開発にしばしば使用しているもので、就職活動や転職活動において自己分析を行い、キャリアビジョンを明確にする手法と基本的に同じです。
やりたいこと(WILL)・できること(CAN)・求められていること(MUST)の3つの観点で自分に関する「事実・特徴」を洗い出し、そこから自分が他者に提供できる価値を明らかにし、さらに集約して端的な将来像を導き出します。広告業界では「ラダリング」とも呼ばれている方法です。(ラダリングとは、直訳すれば「はしごを登る」という意味です。はしごを登るように質問を重ねて、より本質的な便益を段階的に導き出す方法です。)
手順としては、「事実・特徴」から「機能的価値」へ、さらに「機能的価値」から「情緒的価値」へ、最終的に「ビジョン」へと集約していきます。
施策
時間的制約を解決するための「問い」のデザイン
冒頭でも触れた通り、ワークショップを事実上1日という、比較的短い期間で完了させるという制約がありました。
これについては次のような工夫をしました。
TDSとの窓口の方に、10年後の未来を見据えて「やりたいこと」として漠然と考えていることを事前にヒアリングしました。具体的にどのような観点で考えているのかを確認したところ、自分たちの働き方や「このような価値観をもっている顧客と仕事がしたい」とか、「このような業界の人たちと協業したい」などのいくつかの観点があることが分かりました。
さて、価値規定のワークショップでは、最初のワークで「事実・特徴」をできるだけたくさん列挙する必要があります。
そこで、この最初のワークを「事前課題」として前日に配布することにしました。ヒアリング結果はその課題の設問に反映し、参加者が「事実・特徴」を思い付きやすくなるよう留意しました。
ワークショップ会場は前述の通り葉山の海岸に近かったため、5人は一日目の午前中に海岸を散歩したり、水平線を眺めたりしながら事前課題を考えたそうです。
会場をフル活用して「常に考えている状態」を作り出す
初日はビジョンを端的に一言で表わした言葉の案を、5人それぞれに複数作ってもらったところで終了しました。夜は参加者5名とファシリテータ2名がワークショップ会場とした古民家に泊まりました。
初日のワークが終了した後、ビジョンの案を含むワークシート全てを会場の古民家内の建具に貼りめぐらし、常に参加者の目に入るようにしました。これによって、参加者の皆さんが常に会社のビジョンを考えている状態を作り出しました。
翌日2日目の最初のワークでは、各自一言の案を修正して推奨案を1個作ってもらいました。考えを一晩寝かせたことも奏功したようです。
最終的に、参加者全員でビジョンの案を作りました。ビジョンはスローガン(短いタイトルのような言葉)と、ステートメント(解説文)のセットとしてまとめられました。後日、個の言い回しを若干修正し、デザインしたコンセプトボードを納品しました。
以下の写真は、2日目のワークショップ風景と後日納品したコンセプトボードです。
成果
参加者が会社全体を考える態度が強化された
実はすでにワークショップ初日に、
「このフレームワークを用意してもらえただけでも、もうお願いした価値があった。」
との感想もお聴きしていました。
2日目終了後には、次のような感想もありました。
「第三者が入ることで、別の視点が加わり、議論が促進された。」
「会社の将来像については普段から考えているつもりだったが、こんなに考えたのは初めてかもしれない。」
洗い出した「事実・特徴」を根拠として、合理的な推論に基づいてビジョンを導き出せたことが、満足につながったのではないかと考えられます。
またワークショップの数日後、CDI様の参加者の1人から感想を伺いました。あれ以降参加者全員の言動に、会社全体のことを視野に入れている様子が見て取れるようになったそうです。
従来ややもすれば、自分個人や自分が所属する部署を中心として考えていると見られた言動が多かったのかもしれません。それが他部門も含めた会社全体、10年後の会社の将来を見据えた視点が、自然に皆さんに定着したようです。
BtoB企業にも情緒的価値はある
「情緒的価値」とは、機能の結果として顧客が感じる価値、または必ずしも機能とは関わらない感覚的な価値のことです。多くの場合、ブランディングの役割は情緒的価値を顧客に伝えることです。
「BtoB企業」とは「個人ではなく法人を顧客とする事業を行う企業」ですが、一般にはこのような企業の場合、「情緒的価値はない」と思う方も多いようです。または、BtoB企業にも情緒的価値はあると想像では理解していても、あまり実感がないのかもしれません。
今回のワークショップが終わった後、参加者の1人から次のような感想があったのが印象的でした。
「うちはBtoB企業だから情緒的価値ってないよなあ、と思っていたが、実際には情緒的価値を提供した結果として、信頼を得ているのだということが良くわかった。」
ブランディングに携わり、ワークショップを設計・運営する者として、これほど嬉しい言葉はなかなかありません。
CDI様の新たな人事制度・人事戦略の構築が成功することと、事業がますます成功・発展することを、私たちも願っています。
(集合写真は、参加者4名、ファシリテータ2名が映っています。参加者の内1名は、ご家庭の都合により早めに帰宅していました。)
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