「目指したいお布施体験」浸透のためのビジュアライズ
#ブランディング
宗教法人 妙建山 本立寺 さま
「樹木葬」と「次世代の法事」という、本立寺様の新しい取り組みの将来像を引き出し、弊社サービス「未来デッサン」で可視化しました。
対応内容 | コーポレートブランディング、商品ブランディング |
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期間 | 2023年4月~支援継続中 |
ご依頼の背景
本立寺様の新しい取り組み
宗教法人 本立寺様は、品川区五反田にある日蓮宗のお寺です。本立寺様では数年前から、副住職の中島岳大様が新しい取り組みを始めていました。
具体的には、第一に「樹木葬」という新しいタイプの埋葬方法と、それに対応した墓地、第二に、故人・遺族の個性に合わせて設計した、紋切り型ではない法事です(これらの取り組みの詳細は後述します)。
副住職は、この取り組みをともに盛り上げてくれるパートナーを探すため、2022年にある展示会を訪れました。この展示会は広報・IRやブランディングの会社が出展するもので、当社TDSも出展していました。そこで副住職がTDSのブースを訪問し、本立寺様の新しい取り組みのブランディングを相談したのが、弊社との最初の接点でした。
樹木葬
「樹木葬」とは、墓石の代わりに樹木を墓標とする埋葬方法です。個別に埋葬する場合には、小さいながら墓石もありますが、墓地も墓石も従来のお墓と比べると小規模・簡易なもので、埋葬場所を示す指標といったほうが良いかもしれません。「樹木葬」という名前の通り、墓地には四季折々の様々な樹木が植えられ、さながら公園や庭のようになっています。
都市部では何年か前から、この樹木葬のニーズが高まっているようです。
昔はどこの家もどこかのお寺の「檀家」であり、その「菩提寺」に「先祖代々の墓」があるというのが当たり前でした。しかし今日ではすでに一昔前から、先祖代々の墓(累代墓)をもっておらず、新たにお墓を購入しようとしてもなかなか見付けられず、苦労する方々、いわゆる「お墓難民」が少なからず存在しています。
たとえば、海外から移住した方は日本にお墓を持っていません。また、地方から都内に引っ越してきて、新たに世帯をもった方は、都内近郊に墓地をもっていません。このような方々は、新たにお墓を探す必要に迫られます。
日本では墓地はほとんどお寺が管理していますが、お寺によっては異なる宗派の方には墓地を売らない(墓地を買うには改宗が必要になる)という方針を採っているところもあります。一方、本立寺様の樹木葬の墓地は、宗派・国籍をほとんど問いません。
本立寺様の「樹木葬」は数年来、お墓探しにお困りの方々の受け皿になってきました。
次世代の法事
このページを見ている皆様は、「法事」というとどんなものをイメージするでしょうか。
意味が分からない長いお経が唱えられて、意味が良く分からないまま終わる、つまらないもの、と思われている方がほとんどではないでしょうか。
また「お布施」に対しても、「法事」の対価として、戒名の格付け等に応じて世間の相場を気にしながら、義務的に支払うもの、というイメージの方が多いのではないでしょうか。
副住職は一度サラリーマンを経験してから、実家である本立寺様に入りましたが、お寺の仕事に深くかかわるうちに、このような法事やお布施のあり方を変えたいという想いが、日に日に大きくなっていったと言います。
法事とは本来、故人との別れで遺族の心に生じた悲しみや苦しみを、少しでも解消するきっかけになるものです。僧侶が一方的に紋切り型の読経や法話をするのではなく、故人の個性や故人と遺族との関係に応じて法事の内容を設計した、いわばパーソナライズ志向の法事がしたい、と考えるようになりました。
その結果心を癒された遺族が、相場への配慮や義務感からではなく、自然に感謝の気持ちを表わしたいと思われて、お布施を渡したいと思うようになってほしい。寺院がお布施以上のお返しができることを分かってもらいたい。このような「本物のお布施体験」が世の中には必要なのではないか。そう思うようになりました。
しかし代々の檀家さんに対しては、軽々に伝統的な法事のあり方を変えることはさすがに躊躇されました。そこで副住職は住職とも相談し、「樹木葬」の墓地の販売開始に伴って、そこに付随して行われる法事に限って、副住職が考える新しいタイプの法事を行うことにしました。
そこから数年を経て、樹木葬の販売・運営も軌道に乗ってきました。「本物のお布施体験」を世に広めるための次のステップを踏み出そうと考え始めたことが、冒頭で述べた展示会訪問につながります。
解決策
ブランディングの目標
展示会ですでに副住職の熱い想いに触れたこともあって、その後程なく私たちは本立寺様を訪問し、副住職から改めて詳しくお話を聴きました。
顕在的な課題は、展示会の際にお聞きしていた通り、「樹木葬と次世代の法事」という、いわば本立寺様にとっての「新事業ブランド」を盛り上げることです。そして、その背後にある究極の目標は、前述の通り「本物のお布施体験を広めたい」ということでした。
おおまかにですがこの課題をブレイクダウンすると、次の3点に整理されました。すなわちブランディングの目標は、お寺の外部に対しては「樹木葬と次世代の法事を依頼される信徒様を増やす」ことであり、お寺の内部に対しては「法事を楽しんでやれる集団になる」、「本立寺で働きたい人を増やす」ということです。
もちろん、「法事を楽しむなどというと不謹慎ではないか」というご意見があることも副住職はご承知でした。それでもなお、遺族の悲しみ、苦しみ、心のもやもやを少しでも和らげる手助けになるよう、積極的に遺族を喜ばせる法事がしたいという想いで、あえてこのような表現を使っていると話していました。次世代の法事の具体例もいくつか教えてもらい、私たちも素直に感銘を受け、ぜひ支援させてもらいたいと思うようになりました。
まずは組織内のベクトルをそろえる
お寺の外部に向けて情報を発信するには、まずはお寺の内部の関係者が、発信すべき情報を理解し、共有できている必要があります。さらに、内部で情報を共有するには、そもそも「理解し、共有すべき情報は何か」を明確にしなければなりません。言い換えれば、本来はアウターブランディングの前にインナーブランディングが必要なのです。
副住職の樹木葬と次世代の法事にかける想いは、折りに触れスタッフの皆さんにも説明されており、共感して下さる方々もいらっしゃるようでした。しかし、十分に理解され、共有されているとは、必ずしも言い切れない状況であることが分かりました。端的に言えば、ビジョンを社内浸透させることが必要でした(この場合は寺内浸透というべきでしょうか)。
そこでまずは副住職の想いを引き出し、整理し、可視化することが必要だと考えてご提案したのが、「未来デッサン」という私たちのサービスです。最終的には1枚のイラストに落とし込みますが、その過程で行われるヒアリングやワークショップという形でのコンサルティングも、このサービスの重要な無形の成果物です。
施策
ヒアリング~ブランドのらしさを明確にする
「未来デッサン」の最初のプロセスはヒアリングです。「樹木葬と次世代の法事」という「新事業ブランド」の「らしさ」を明らかにするため、副住職とスタッフの計2名の方に2時間ずつヒアリングを行いました。
副住職のヒアリングでは、ご本人も言語化していなかった想いを引き出すために、まずは経歴を語ってもらいました。一般企業での社会人経験、その後の僧侶としての修行などを時系列で語ってもらう中で、副住職の信念、すなわち新事業ブランドの理念を形作った原体験が、徐々に鮮明になっていきました。
特に、修行中の合宿で体験した、ある僧侶の法事や法話は、涙が出るくらい素晴らしかったと言います。「プロがやると違うんだよ」と言われ、衝撃を受けたそうです。それまでは副住職自身、「法事と言えば型通りのつまらないもの」と思いながら、そのことにずっと問題意識を抱えていました。しかしこの体験から、「どんな職業でもプロフェッショナルはいる」と悟り、「自分もこのような法事をやりたい」という思いを強くしたそうです。
ヒアリングしたもう1名の方は、副住職と一緒に樹木葬と次世代の法事を推進している事務スタッフです。お寺という業界や檀家様との付き合い、副住職が法事にどう取り組まれているか、他のお寺とはどう違うか等を、第三者の視点から語ってもらいました。
アイディエーション
次はいよいよ、「樹木葬と次世代の法事」ブランドのビジョン(理想的な将来像)を考えるワークショップです。信徒様がブランドを体験する過程をいくつかの段階に分け、その段階に応じてお寺側がどのような施策をすべきか、本立寺様とTDSのメンバーが一緒に案を出していきました。
アイデアを出す際に重要なことは、「発散」と「収束」を何度か繰り返すことです。「発散」のプロセスでは、「予算が大丈夫か?」「慣例に反していないか?」などは考えず、とにかく思い付くアイデアをどんどん出していきます。この時念頭に置いたのは、「普通はお寺がやらなそうなこと」でした。たとえば、お寺が配信するポッドキャスト、お寺での調香体験、日中韓英各国語の読経などなど、さまざまなアイデアが出てきました。
一方「収束」のプロセスでは、アイデアを広げることは禁止です。コンセプト(この場合は「本物のお布施体験」)の実現に寄与するかどうかを判断基準として、出されたアイデアをふるいにかけたり、修正したりしました。
ビジュアライズ
最終的に残った四十個程度のアイデアをもとに、本立寺様の理想的な将来像のイラストを作りました。これまでのプロセスから、イラストをどのような雰囲気にすべきか、本立寺様と弊社との間で自然に共通の認識ができていました。その結果、ほんわかとした、優しいタッチのイラストに仕上げることになりました。
イラストでは本堂を境目として、左側には葬儀前、右側には葬儀後の施策を図示しています。葬儀、一周忌、三回忌と法要を重ねるにつれ、遺族の気持ちが段階的に和らいでいく過程も表現しています。各段階には、そこで行われる施策の光景を配置し、画面右下の空いたスペースには樹木葬の墓地のイメージを配置しています。
成果
未来デッサンのご利益
納品後に中島副住職から、今回の私たちの仕事に対する感想を教えてもらいました。
そのお話から、今回の未来デッサンの成果は次の3ポイントに整理できます。
<副住職のお話 3ポイント>
1.情報の整理
・ヒアリングの際、自分たちがどんな思いを持っていて、それがどんな課題につながったか、良く聴いてもらえた。自分たちの頭の整理にもなった。
・ビジュアライズされたものを見て、自分が話していた世界が「こういうものだったんだ!」とわかった。立体感をもって曼荼羅のように表現されていて、ファイルを開いた時、思わず「おお~」と言ってしまった(笑)
・「グラフィックレコーディング」も初めての体験で、うちでも是非取り入れたいと思った。(グラフィックレコーディングは、絵や図を用いて会議の内容を視覚化すること。いわば絵による議事録。)
2.アイデア創出の促進
・ワークショップでは、思ったことをどんどん付箋に書いてホワイトボードに貼っていった。自分たちだけの時より、いろんなアイデアが出てきた。
・図を見ると、「じゃあもっとこうしたほうが良いかな」と思い付いて、改めてアイデアが出て来る。
3.意思疎通の活性化
・私が考える将来像は、今まではスタッフの一人ひとりに面談したりして伝えていたが、図を見てもらうことで共有しやすくなった。自分たちの考えていたこと、これからやろうとしていることがわかりやすくなった。
・ワークショップの時や、納品された図を前に話をした時など、スタッフに対しても「こんなこと考えてるんだ!」と初めて分かったこともある。
そして何より、副住職は「一緒に考えてもらえることがうれしかった」と言います。また、「2.アイデア創出の促進」や「3.意思疎通の活性化」のコメントからは、お寺のスタッフがお寺のビジョンに共感し、自分ごと化する効果もあったことが伺われます。
現在(2023年11月)、すでに次の段階のブランディングが進行中です。今後も本立寺様の期待に応えられるよう、私たちも最善を尽くしたいと考えています。
なお、副住職のお話は次の動画でも視聴できます
WEB掲載していない事例も
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